頸椎の変形性関節症

頸椎の変形性関節症とは
変形性関節症とは炎症により骨の関節面が変形する疾患である。
関節突起間関節の変形性関節症 … 特にC6- C7の関節突起間関節に変形性関節症が認められる場合が多いが、臨床徴候を呈していない馬でも認められることが多いため、除外診断によって臨床的意義を評価する必要がある。一方で、C5- C6関節突起間関節の変形性関節症は臨床徴候のない馬で認められることが稀である。
椎間板脊椎炎 … 馬では稀だが、典型例はC3- C4、C6- C7、C7- T1に認められる。重度な頚部の疼痛、間欠性前肢跛行を呈し、予後が悪い。

頸椎の外側面(横から見た図)

 

頸椎の頭側面(前から見た図)

 

臨床徴候

● 頸の疼痛 … 頸を動かすこと、頭を高く上げることを嫌う例が多い。運動時に頸を曲げたり頭を高く保持したりするのを嫌がることが稟告となることもある。また、頸の疼痛により地面に置かれた乾草を食べにくくなることもある。

前肢跛行 … 脊髄神経根が傷害されることで前肢跛行を呈すこともある。また、頸の痛みにより前肢跛行を続発することもある。

運動失調 … C5-C7の脊椎管(spinalcanal)は比較的広いのでこの部位の関節突起間関節の変形性関節症により脊椎管が狭窄することは少ないが、関節突起間関節の滑液包の腫脹により脊髄が圧迫されて運動失調を呈す場合もある。脊髄の固有受容感覚(目を閉じていても、自分の手や足の位置と、それを動かしていることが分かる感覚:proprioception)を司る部分が傷害されるために四肢に運動失調が起こる場合もあるが、後肢の固有受容感覚を司る領域がより表層に位置するため、後肢の運動失調が目立つことが多い。前肢の運動失調が目立つこともあるが、これは主にC6-C7において中心性に脊髄が傷害されたためであると推定される。運動失調が軽度かつ間欠性である場合には、速歩から常歩に歩様転換する際に後躯の弱さが強調される場合がある。速い速度で運動しているときには正常に見えるものの、調馬策における駈歩でトモの踏み込みの悪さが目立ち、臀部が沈み込まないの駈歩を呈す場合もある。これらの馬は、歩いているときに尻尾を左右どちらかに引くと、よろめく。正常な馬では、1度目はよろめいても再度尻尾を引くと強く抵抗するが、運動失調のある馬では、何度尻尾を引っ張ってもよろめく。これを "ふらつきテスト(sway test)" と称す。背外側部脊髄の圧迫により、左右非対称の運動失調や不全麻痺を呈す場合もある。頸の疼痛、頸部筋の萎縮、頸部皮膚の感覚麻痺が認められることはまれだが、C5- C7の変形性関節症により脊髄神経が圧迫されることでこれらの徴候が発現する場合もある。

 

頸椎圧迫性脊髄症のタイプ分類
頸部において脊髄が圧迫されることで症状が発現する疾患を頸椎圧迫性脊髄症(cervical vertebral compressive myelopathy)といい、原因によって以下のように分類される。

 

頸椎圧迫性脊髄症(Cervical vertebral compressive myelopathy)のタイプ分類

タイプ1 頸椎の先天性形成不全(典型例はC3- C6)により頸椎が不安定となるために脊髄が圧迫される。典型例は3-18ヶ月齢で診断され、一般的にウォブラー症候群(wobbler  syndrome)と呼ばれる。
タイプ2 頸椎の関節突起間関節の変形性関節症より脊髄が圧迫される。成馬(典型例は8才以上)で診断されることが多い。

上記の2分類は非常に簡潔でわかりやすいが、治療方法を選択する上で重要となる脊髄を圧迫する原因に注目すると、以下のように分類される。

 

頸椎圧迫性脊髄症(Cervical vertebral compressive myelopathy)の原因に注目したタイプ分類

タイプ1 若齢馬において、頸椎の先天性形成不全により脊髄が圧迫される。典型例は18ヶ月齢未満で診断されるが、2〜4歳で診断される例もある。
タイプ2 若齢馬において、関節突起間関節の変形性関節症により脊髄が圧迫される。頸椎の先天性形成不全は確認されないが、若齢であるにも関わらず関節突起間関節の変形性関節症が認められる。外傷に起因すると推測される。
タイプ3 若齢馬において、軽度の頚椎先天性形成不全に起因する関節突起間関節の変形性関節症により脊髄が圧迫される。典型例は3〜6歳で診断される。
タイプ4 成馬において、関節突起間関節の変形性関節症および靭帯炎により脊髄が圧迫される。典型例は8才以上で診断される。

 

以上のように、特に仔馬ではないが3〜6歳程度の若齢馬で頸椎関節突起間関節の変形性関節症が認められる場合、背景に軽度の頸椎先天性形成不全が存在する可能性があることを考慮すべきである。

X線検査による診断方法
DR(digital radiography)もしくはCR(computed radiography)を用いれば、ポータブルX線照射器でも診断可能な画像を撮影することができる。ただし、C6- T1を評価するためには高線量X線照射器が必要となる場合が多い。頚椎3個が1枚に写ったX線画像を撮影することが望ましいため、半切サイズ(35cm×43cm)のカセッテを用いることが推奨される。

 

450kgの馬におけるX線撮影条件の目安

CR
Kv

CR
mAs

DR
Kv

DR
mAs

後頭骨-C2 70 20 68 14
C3-C5 81 40 79 16
C5-C7 100 80 93 45
C6-T1 100 100 96 71

 

まずは正確に真横から撮影したラテラル像が必要だが、続けて斜位像(ventrolateral-dorsolateral oblique view)を撮影することで、左右の関節突起間関節を個別に評価することができる。C4- C7の斜位像は45-55°の角度をつけることが推奨されており、ポインターは頸椎の15cm下に合わせる。X線画像上でC3- C5を区別することは難しいが、C6は椎体がC3- C5よりもやや短く、横突起が3つに分岐している。また、C7の椎体はC6よりもさらに短い。
あるいは、左からと右からのラテラル像を撮影することで、左右どちらの関節突起間関節に変形性関節症があるのか区別できる場合もある。カセッテに近い病変は拡大率が低く、クリアに描出される。

 

X線画像における異常所見の臨床的意義を評価することは難しい。超音波ガイド下で関節突起間関節の滑液包内に局所麻酔液を注入することが臨床的意義の評価につながる場合もある。

 

治療方法
関節突起間関節の変形性関節症により軽度の運動失調を伴う頚の疼痛や前肢跛行を呈している場合、NSAIDsの全身投与および休養による反応は悪いため、ステロイドの関節突起間関節内投与が推奨されている。ステロイドはトリアムシノロン(8mg/joint、最大投与量16mg)もしくはメチルプレドニゾロン(40mg/joint、最大投与量160mg)などを用いる。投与後1〜4ヶ月後に臨床徴候の改善が認められ、1〜5年間効果が持続する場合があるが、効果が2〜3ヶ月で消失する場合もある。

 

ステロイドの関節突起間関節内投与は、超音波ガイド下で行う。microconvex probe もしくは phased array probe を用いることが望ましい。頸椎横突起の6-8cm上からやや頭側方向にプローブを向けると、少なくとも2つの関節突起間関節の辺縁が深さ約4-5cmの位置に三日月状に映し出される。そこで、12.5cm、18G spinal needleをプローブの約1cm背側からプローブと同じ角度で刺入し、関節液の吸引により針先が関節内に到達したことを確認してから、ステロイドを注入する。(超音波画像は Diagnosis and Management of Lameness in the Horse 2e p.653 もしくは Equine Neckand Back Pathology 2e p.185 を参照)

 

<参考資料>
1. Equine Neck and Back Pathology 2e p.95-106, 175-193
2. Diagnosis and Management of Lameness in the Horse 2e p.612-614, 649-654
3. Manual of Equine Lameness p.402-403
4. Clinical Radiology of the Horse 3e p.505-535
5. 馬臨床学 p.146-147