ビタミンE欠乏症:馬モーターニューロン病

馬モーターニューロン病とは
突然、震えが観察されるようになったり、起立時に連続的に後肢の体重を移動したり、横臥している時間が長くなったりする病気。原因はビタミンEの欠乏であると考えられている。

 

馬モーターニューロン病の症状
身体の震えが観察されるようになる前に、筋肉の萎縮による顕著な体重減少が観察されることが多い。また、尾根が挙上し、頭部が常に低い位置に保たれることが多い。まれに、震えや後肢の体重移動が観察されず、筋の萎縮のみが観察される馬もいる。

 

ビタミンEのはたらき
ビタミンEは酸化ダメージから組織を守るはたらきに関与する。ビタミンEが欠乏すると運動神経が損傷するため、馬モーターニューロン病を発症する。
新鮮な青草(特に未成熟なもの)はビタミンEを豊富に含む(30-100 IU/kg dry matter)が、収穫後の保存時間が長くなるにつれて含有量が減少する。また、穀類のビタミンE含有量は少ない(20-30 IU/kg dry matter)。市販されている配合飼料には十分量のビタミンEが添加されていることが多いが、配合飼料の給餌量が少なく、乾草と穀類を主に給餌している場合には不足するビタミンEを補う必要がある。

 

ビタミンEの必要量
運動をする馬のビタミンEの必要量は1日1,000 IU/500kg、全く運動しない馬でも500 IU/500kgとされる。
市販の配合飼料やサプリメントに添加されているビタミンEは人工的に合成されたall-rac-α-トコフェロール酢酸エステルであり、1 IU/mgである。一方で、青草などに含まれる天然のRRR-α-トコフェロール酢酸エステルは、1.36 IU/mgである。

 

血液検査所見
● 血清中α-トコフェロール濃度が<1μg/mLである。
● CKとASTの軽〜中程度の上昇が観察される。
● 血漿中ビタミンA濃度は正常〜わずかに低値である。

 

治療法
● α-トコフェロール/ビタミンE1.5-4.4mg/kg/dayを飼料に添加するか、質の良い青草が生えた牧草地に放牧する。
● 2〜3ヶ月は運動を控え、その後、物理療法としてのリハビリ運動を始める。
● 急性期に抗酸化作用のあるグルココルチコイド、ビタミンC、DMSOを投与しても良いが、有効性は不明である。

 

予後
● 治療により臨床徴候が劇的に良くなる馬もいるが、運動神経の一部は永久に失われる。臨床徴候が表れる前に既に30%ほどの運動神経が失われていると考えられている。ただし、臨床徴候が発現したとき、まだ失われていないが機能していない運動神経が存在する。この運動神経の機能が復活することで、臨床徴候の顕著な改善が見られることもある。
● 40%の症例は悪化し続け、発症から4週以内に安楽死に至る。治療により症状の改善が認められる場合には、変化が認められるまでに4〜6週を要す。

 

<参考資料>
1. Equine Medicine 6 p.615
2. Nutrient Requirements of Horses 6e p.114
3. 競走馬ハンドブックp.374-375