ハイオネート、アデカン、ペントサン<獣医師向け>

推奨投与量
〇 ハイオネート 40mg/頭、静脈内投与、1週間ごと1-3回
〇 アデカン   500mg/頭、筋肉内投与、3-5日ごと5-7回
〇 ペントサン  3mg/kg、筋肉内投与、1週間ごと4回

 

ハイオネート:Hyonate
低分子量(30万Da)のヒアルロン酸を含む静脈内投与薬で、滑膜状態の改善、PGE2の減少などの効果が確認されている。

 

● 滑膜は血管が豊富であり、静脈内投与しても滑膜細胞が十分にヒアルロン酸に暴露される。ヒアルロン酸は、滑膜上のCD44受容体に結合することで多種サイトカインの発現を抑制する
● ヒアルロン酸の半減期は極めて短く、投与後に高濃度で存在する時間は関節内投与で数時間、静脈内投与で数分である。ヒアルロン酸の代謝メカニズムの大半は未解明だが、ヒアルロン酸分解酵素であるヒアルロニダーゼが体内に広く分布することが知られている。
● 低分子量ヒアルロン酸を関節内に投与しても、すぐに漏出してしまう。ハイオネートに含まれるヒアルロン酸は低分子量(30万Da)なので、関節内投与の有用性は低いと考えられる。

ヒアルロン酸の分子量
ヒアルロン酸を関節内に投与する場合、最も重要な効果は滑液の粘度増加ではなく、抗炎症作用である。抗炎症作用はヒアルロン酸の分子量に左右され、中分子量(50-100万Da)で最大となる。抗炎症作用により滑膜の状態が改善した結果、高分子量ヒアルロン酸の生成量が増加する。

 

アデカン:Adequan
多硫酸グリコサミノグリカン(polysulfated glycosaminoglycans:PSGAGs)を含む注射薬で、もともとは関節内投与薬だが、補体経路の変化によりStaphylococcus aureusの感染率が上昇することが明らかになって以来、筋肉内投与が一般的である。PGE2阻害とサイトカイン放出抑制による抗炎症作用のほか、軟骨の保護作用、ヒアルロン酸の合成促進作用がある。

 

● 筋肉内投与の有効性を示す科学的根拠は不十分である。関節炎進行の予防薬として使用される例が多いが、予防効果の科学的根拠は乏しい。
● 軟骨の保護作用は確認されているものの、メカニズムは不明瞭である。PSGAGsがコラーゲン線維、フィブロネクチンと安定な複合体を形成し、軟骨に沈殿すると言われる。
● Adequanは牛の肺および気管から生成されたPSGAGsを含む。Pentosan Polysulfateの成分も類似した構造だが、植物由来である。

 

ペントサン:Pentosan Polysulfate
植物のヘミセルロース(細胞壁を構成するセルロース以外の多糖類の総称)由来の高分子(様々な分子量分布から成る)であり、抗血栓薬および高脂血症改善薬として長らくヨーロッパで使用されてきた薬だが、以下の作用が認められることが明らかになった。
〇プロテオグリカン・コラーゲン分解酵素を阻害するとともに、プロテオグリカンの合成を促進させる
〇 軟骨周囲の微小血流の改善により軟骨下骨の壊死および硬化が減少するとともに、低還流に起因する疼痛が緩和される
〇 in vitroにおいて滑膜細胞のヒアルロン酸合成を促進させる
〇 関節軟骨の基質を分解する酵素(metalloproteinase3など)を阻害するとともに、サイトカインの受容体への結合を阻害する
〇 IGF-1受容体の分解を阻害する

インスリンとIGF-T、IGF-U(インスリン様成長因子insulin-like growth factor:インスリンに類似したポリペプチドで、成長ホルモンの作用によって肝臓から分泌される)は軟骨内骨化のプロセスに直接的な影響を及ぼす。特にIGFは軟骨細胞(chondrocyte)の分裂促進因子(mitogens)として作用し、軟骨細胞の遺残を引き起こしたり、アポトーシスを抑制したりする。妊娠期間中に濃厚飼料を与えなかった場合、仔馬のOCD発生率が低い。

 

● 0, 3, 6, 10mg/kgを単回筋肉内投与したところ、容量依存性にプロトロンビン時間が延長した。延長はごくわずかだが、作用は24時間持続した。したがって、外傷がある場合には高容量の投与を控えるべきである。
● 手根中央関節に剥離骨折を作出した関節症モデル9頭にペントサン3mg/kgを筋肉内投与したところ、投与群では関節軟骨の毛羽立ち(fibrillation)が顕著に減少した。跛行や屈曲痛の緩和も、顕著ではないものの確認された。

 

グリコサミノグリカン(glycosaminoglycan:GAG)とは
グリコサミノグリカンとは長鎖で枝分かれのないムコ多糖(アミノ基を含む多糖)であり、結合組織を中心にあらゆる組織に普遍的に存在する。ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、グルコサミンはグリコサミノグリカンの一種である。多くのグリコサミノグリカンは硫酸基が付加した繰り返し構造であり、コアタンパク質に付加したプロテオグリカンとして存在するが、ヒアルロン酸は硫酸基をもたず、タンパク質にも結合していない。グルコサミンはヒアルロン酸などのグリコサミノグリカンの成分である。コンドロイチン硫酸はヒアルロン酸とともに軟骨を構成する成分であり、保水作用を担う。

 

<参考資料>
1. Joint Disease in the Horse p.215-227, 73
2. Lameness in Horses 6e p.957-960
3. Equine Medicine 7 p.798-804