ルード&リドル講習会:深屈腱切断術の予後

※ 2019年4月12〜13日にルード&リドル・エクワイン・ホスピタルにて開催されたポダイアトリー講習会における Raul Bras 氏の講演の概要をご紹介します。

 

講演では、深屈腱切断術の予後に関する文献の紹介、切断術の手技の説明に加え、複数の症例報告を通して早期に深屈腱切断術に踏み切ることの重要性が強調された。

 

● 深屈腱切断術は予後が悪いと言われることが多いが、それは早期に深屈腱切断術に踏み切らないためだ。装蹄療法で対処できないことがわかってから深屈腱切断術に踏み切るのでは遅い。

 

● 蹄葉炎の急性期において、蹄骨のローテーションがわずかであることは、深屈腱切断術を見送る理由にはならない。蹄骨のローテーションがわずかでも、血管造影検査を行うことで葉状層の血流が非常に悪い状態であることが判明する場合がある。この場合は、直ちに深屈腱切断術に踏み切るとともに蹄のバランスを大きく変えることで、血流を促進させるとともに蹄骨尖の変形を防ぐことができる可能性が高い。蹄骨尖が変形した症例では、深屈腱切断術の予後が顕著に悪くなる。

 

● ある繁殖牝馬は、左前肢の蹄支から排膿した後、跛行が消失しないため抗菌薬の局所灌流を行ったところ、数日後に右前肢の蹄支から排膿した。その後も、蹄キャストや接着装蹄など様々な装蹄療法を試したものの、両前肢の状態は悪化し続けた。2〜3日ごとにX線撮影を行い、4週間経過観察を続けても蹄骨のローテーションが認められなかったために軽視していたが、4週目に血管造影検査を行ったところ、蹄内血流の状態が著しく悪かった。蹄冠部蹄壁の蹄壁を切除するとともに深屈腱切断術を行ったところ、一蹄は良好に経過したが、もう一蹄は血流が回復せず疼痛が持続したため、安楽死に至った。ローテーションが認められなくても、疼痛が持続する場合には速やかに血管造影検査を行う必要がある。

 

● 深屈腱切断術を行うと、常に球節が大きく沈下した状態になり、全く運動できない状態になると考えるオーナーが見られるが、少なくとも、前肢の深屈腱切断術を行っても軽度の騎乗運動に耐えられる。ただし、調子が良いために運動強度を上げてしまった例では、蹄骨炎に伴う蹄膿瘍を発症し安楽死に至った。

 

 

● 蹄葉炎の対処において蹄底充填剤および蹄キャストに頼りたくなるが、蹄バランスとともに深屈腱のテンションを変えなければ、無意味である。そして、装蹄療法を行った後、X線検査および血管造影検査を行い、装蹄療法の効果を確認することが必要不可欠だ。装蹄療法を行っても血流の促進が認められない場合には、迅速に深屈腱切断術に踏み切ることでパスチャー・サウンド(競技に復帰することはできないが、放牧地で苦痛なく幸せに生きることができる状態)が期待できる。

 

● スコット・モリソン氏による2011年の報告によると、シンカー型蹄葉炎における深屈腱切断術の予後は、18%の症例で良好だった。18%という数値は、症例数や症例の重症度に大きく左右され、感覚的には成功率はもう少し悪いが、深屈腱切断術を試す価値のある症例はある。