蹄骨骨折と診断されたら、蹄の広がりを抑える蹄鉄を装着すべき?

蹄骨骨折の主なパターン
蹄骨の骨折は、以下の7種に分類される。

 

この7種の骨折パターンを大きく分けると、以下の4種に分類できる。
@ 掌突起(the palmar process)の骨折…T, Z
A 伸筋突起(the extensor process)の骨折…W
B 蹄骨辺縁が欠ける骨折…Y
C 矢状骨折:蹄骨先から蹄関節面にかけて亀裂が入るもの…U, V, X

 

最も重要なのは骨折線が蹄関節面に至るかどうかを見極めることである。骨折線が蹄関節面に至る場合は癒合しても関節炎が進行するため、予後が悪いことが多い。また、顕著な骨折線以外にも骨折線が存在する場合があるため、経過観察においてレントゲン検査を行った際に、レントゲン画像を注意深く観察する。

 

@ 掌突起(the palmar process)の骨折
● ラテラル像ではわかりにくいので、骨折が疑われたらスカイビュー像(dorsoproximal-palmarodistal oblique view)を撮影する必要がある。また、通常のスカイビュー像では骨折線が関節面に至るかどうかわからないことが多いため、45°または60°の背外-掌内斜位像(dorsolateral-palmaromedial oblique view)を撮影する必要がある。
● 反復性の外傷により生じることがある。ただし、古い骨折が癒合していない場合があるため、レントゲン画像上で骨折線が認められたとしても現時点で痛みの原因になっているとは限らない。跛行を呈していない馬で偶発的に見つかることもあ
● 蹄骨が骨折した場合、ふつうは突発性の跛行を呈し、圧痛・蹄の振動痛があるため蹄鉗子検査に反応するが、掌突起の骨折では蹄鉗子検査に反応せず、跛行も重度でない場合がある。
● 18ヶ月齢以上の馬で蹄関節を含む骨折が認められた場合(蹄骨には掌突起に骨化中心があり、18ヶ月齢まで閉鎖しない)は原則的に内固定をすべきだが、その必要がない場合もある。蹄関節を含まない場合や18ヶ月齢未満の場合、保存療法の予後は良い。
● 関節面に至らない掌突起の骨折が数週齢〜1歳の子馬で認められることがある。この場合、蹄形がクラブフット状であり、跛行を呈す場合が多い(蹄形の異常が認められないこともある)。伸筋突起の骨折のように異常な骨化中心が原因ではなく、骨折が原因だと考えられている。

 

A 伸筋突起(the extensor process)の骨折
● ラテラル像で認められる。
● 骨折後、レントゲン画像上で完全な骨片の癒合が認められない場合もある。跛行を呈していないものの、両側性に伸筋突起が剥離骨折しているように見える馬が偶発的に発見される。
● 伸筋突起付近に見られる小さなX線不透過像は、伸筋腱内の異栄養性石灰化であると考えられる。
● レントゲン画像だけでは重要性を判定できないので、神経ブロックにより臨床的意義を判定する。骨片が直径5mm以下である場合、もしくは亀裂骨折が蹄関節に至らない場合は保存療法の予後が良いが、跛行が消失した後もレントゲン画像上で骨片の癒合が確認できない場合もある。直径5〜10mmの骨片が跛行の原因になっている場合、外科的除去が必要となることもある。
● 運動を始めたばかりの若馬が突発性の跛行を呈したためレントゲン検査を行うと、レントゲン画像で蹄関節面を1/4〜1/3含む大きな骨片が片側性もしくは両側性に認められる場合がある。多くは骨硬化を伴っており、既に慢性経過していることがわかる。これは伸筋突起における骨嚢胞病変から二次性に亀裂骨折に至ったものと考えられており、異常な骨化中心が存在していたと推測される。この場合、外科的治療を行ったとしても、長期間にわたって強い運動に耐えられる可能性は低い。

 

B 蹄骨辺縁が欠ける骨折
● よく挫跖を起こす平蹄に多い。
● 跛行の原因が複数あるため、急性の跛行を呈する例はあまりない。
● このタイプではほとんどの場合、骨折と診断されてから時間が経過してもレントゲン画像で骨片の癒合が確認できないことが多い。小さな骨片は吸収される場合もある。
● 予後は良いが同様の骨折を繰り返す傾向があるため、蹄底の保護が必要となる場合がある。

 

C 矢状骨折
● 内固定が必要となる。癒合しても関節炎が進行するため、予後が悪い。
● タイプX(骨折線が複数認められる場合)では、蹄の広がりを抑える処置(特殊蹄鉄もしくはキャスト固定)を施した上で馬房内休養させる。

 

保存療法を行う場合の装蹄療法
内固定せずに保存療法を行う場合は、蹄の広がりを抑える蹄鉄を装着すると良い。
蹄の広がりを抑える蹄鉄として、蹄鉄の外周に連続的に鉄唇を設けた連続鉄唇蹄鉄 (contiguous clip shoe) や、内外の蹄側部〜蹄踵部に鉄唇を設けた蹄鉄などが用いられる。
また、蹄骨辺縁が欠けた場合には、治療もしくは再発予防のために蹄底の保護が有効である場合がある。

連続鉄唇蹄鉄 (contiguous clip shoe)

 

<参考資料>
1. Clinical Radiology of the horse 3e p.87-90
2. Lameness in Horses p.501-509