不同蹄

不同蹄

機器を用いて馬の動きを客観的に評価すると、大半の馬で動きの非対称性が確認され、跛行に分類できるそうだ。そして、不同蹄と歩様の違和感に関連性がある、という報告は多数ある。しかし、これらの報告から、歩様の違和感の原因は不同蹄だ、と短絡的に結論付けることはできない。
そこで、不同蹄が生じる原因を考えるために、不同蹄に関するデータを紹介したい。

 

仔馬を4週ごとに削蹄しても不同蹄を解消することはできない
4週令から24週令にかけて、23頭の仔馬のうち半数を4週ごとに削蹄し、半数は削蹄を行わなかったところ、27週令において削蹄した群と削蹄しなかった群の不同蹄の程度に差はなかった。また、荷重中心点の位置にも差が認められなかった。28週令以降はすべての馬を8週ごとに削蹄したが、やはり不同蹄は改善されず、27週令で観察された荷重中心点の左右差は55週令においても同様に観察された。

 

興味深いことに、同じ馬が3歳になった時に不同蹄の影響を調べたデータが報告されている。不同蹄と前肢の開き方の好み(地面に牧草を置いて特定の傾向があるか調べた)、駈歩の手前の好み(人が騎乗しない状態で駈歩させたときに、特定の手前が出やすい傾向があるか調べた)、障害飛越能力(人が騎乗しない状態で障害を飛越させ、飛越能力を調べた)に関連性があるかどうか調べたところ、前肢の開き方の好みは依然として残っており、不同蹄との関連性が認められた。また、不同蹄と駈歩の手前の好みとの関連性も認められたが、障害飛越能力との関連性は認められなかった。ちなみに、この馬たちは、普段小さなパドックに放牧されるものの放牧地で草を食むことはなく、厩舎内で地面に置かれた乾草を食べていた。

 

クラブフットは左前肢よりも右前肢の方が多い
イギリスにて373 頭のサラブレッドの仔馬を調べたところ、蹄踵が地面に着かない状態(より重度だとバレリーナ症候群)もクラブフットも認められなかったのは257 頭(バレリーナ症候群およびクラブフットの発生率は31%)であり、クラブフットが認められた仔馬のうち、左前がクラブフットだったのは 18 頭、右前がクラブフットだったのは 54 頭(75 %が右前)だった。また、蹄踵が地面に着かない状態が最初に確認された日齢の平均値は 53.5 (20 - 110)だったのに対し、53日齢より前にクラブフットが確認された仔馬はいなかった。1月生まれから5月生まれにかけて蹄踵が地面に着かない状態が観察される仔馬の割合は順に増加する一方で、クラブフットは順に減少する。これは、1月生まれよりも4月生まれの方が蹄踵が地面に着かない状態が早期に認知されやすいため、正しく対処されて進行しにくいためだと考察されている。

 

右前肢が高い場合と左前肢が高い馬では、体の使い方が異なる
右前の蹄角度の方が高い馬15頭、左前の蹄角度の方が高い馬12頭の四肢蹄にかかる力を測定したところ、右前の蹄角度の方が高い馬では四肢のGRFが馬体の左側に向って傾く、すなわち馬体が左に傾く傾向があった。一方で、左前の蹄角度の方が高い馬では馬体全体が右に傾く傾向はなかった。このことから、右前の蹄角度の方が高い馬では右手前の円運動が難しくなると考えられると考察されている。ちなみにこの研究では左右前肢の蹄角度の差が1.5°以上である場合に不同蹄があると定義しており、不同蹄のない馬7頭の検証も行っている。

 

不同蹄は馬場馬に多い
不同蹄の程度が大きい馬は仔馬の時に体高に比べて肢が長く頚が短い傾向があることが報告されており、これは放牧中に牧草を食べる際に前肢をより大きく前後に開く必要があるためだろうと言われている。一方で、き甲が発達した馬(単純に体高が高いだけでなく、き甲が大きく発達した馬)を選抜していくと相対的に頚が短い馬が生まれやすいことが明らかになっている。発達したき甲はあらゆる乗馬競技において好まれる形質であるため、人為的な選抜淘汰を繰り返すことで頚が短く不同蹄になりやすい馬が増えると考えられている。その中でも障害馬では頚が長い方が障害飛越に有利なためき甲が発達した馬のうち比較的頚が長い個体が選別されてきたが、馬場馬では頚の長い個体ではなく頚が上に向かっている(頭の位置が高いと表現される)個体の方が有利なため、障害馬ほど頚が長い個体が選別されてこなかった。この結果、特に馬場馬の血統に生まれつき不同蹄になりやすい馬が多いと言われている。ちなみに、トップレベルの競技馬を除いて、不同蹄がある馬で顕著に競技寿命が短くなるような傾向は認められない。(ウマ科学会  2018:Low Heel/High Heel Syndrome 罹患馬の歩様違和に関する考察

 

<参考資料>
1. A.M.Kroekenstoel et al. (2006) Developmental aspects of distal limb conformation in the horse: the potential consequences of uneven feet in foals, Equine Vet . J. 38, 652-656
2. S.J. Curtis et al. (2012) The incidence of Acquired Flexural Deformity and Unilateral Club Foot (uneven feet) in Thoroughbred Foals. Equine Medicine and Surgery
3. Sarah Jane Hobbs et al. (2018) Sagittal plane fore hoof unevenness is associated with fore and hindlimb asymmetrical force vectors in the sagittal and frontal planes. PLoS One 13 (8) e0203134
4. Equine Locomotion 2e p.229-244