レントゲン検査による蹄葉炎の評価方法

● 蹄葉炎をレントゲン検査にて評価する際には、まずラテラル像 (外内側像) が確実に真横から撮影されていることを確認する。真横から10°以上ずれていると、ローテーションが過小評価される。
● レントゲン画像において長さを厳密に計測するためには、レントゲン画像に長さのわかるものを写り込ませてレントゲン画像上の長さを補正する必要がある。1〜2mmの差が意味を持つことがある蹄のレントゲンでは、レントゲン画像上の長さに誤差がないことを確かめることが望ましい。

 

@ 蹄骨変位の評価

a:蹄冠から伸筋突起までの距離
b:蹄骨の伸筋突起遠位端から蹄壁表面までの距離
c:蹄骨掌側面の長さ(palmar length)
d:蹄底角質の厚み(depth of sole)

 

● サラブレッドにおける正常値は、以下の通りであるとされている。
a≦10mm(-2〜10mm)
b≦20mm(13〜20mm)
b/c<28% 

 

● サラブレッド以外の品種における正常値の目安は、以下の通りである。

ポニー 温血種 軽種とポニーの交雑種
蹄冠から伸筋突起までの距離 (a) 0-6.3mm 8-14mm 4.5-9.3mm
蹄骨の伸筋突起遠位端から蹄壁表面までの距離 (b) 11-16mm 17-21mm 16-21mm

 

● b/cは蹄に大きさに関係なくローテーションの程度を評価できる指標であり、以下のようにローテーション型蹄葉炎である可能性を評価できるとされる。
b/c=8〜32% 蹄葉炎の可能性あり
b/c>32% 蹄葉炎の可能性高い

 

● a:蹄冠から伸筋突起までの距離はシンカー型蹄葉炎であるかどうか判断する際に用いられることが多いが、実は非常に誤差の大きい指標である。正常馬で装蹄直後から1週ごとにレントゲン検査を行ったところ、レントゲン画像によって蹄冠から伸筋突起までの距離に最大3.2mmの誤差が確認された、という報告がある。X線照射器のポインターの高さが10cm変化しても蹄冠から伸筋突起までの距離の距離は1.5mmしか変わらないことが確認されているため、誤差の原因はポインターの高さの違いではなく、肢にかかる荷重の変化であると推測される。

 

● d:蹄底角質の厚みは蹄葉炎であるかどうか判断するときに用いる指標ではない。蹄骨が変位していることが特定された場合に、d≧15mm以上にすることを目標にすべきであるとされている。d:蹄底角質の厚みの正常値はサラブレッドで11-14mm、温血種で15mm程度とされているが、必ずしもこの限りではない。

 

A ローテーションの評価

● ローテーションの程度を評価数方法は蹄葉炎を発症してからの経過日数により異なり、以下の角度を指標として評価するべきだとされている。
蹄葉炎急性期(蹄の変形が小さい時期)…角度α、または角度ε−δ
蹄葉炎慢性期(蹄の変形が大きい時期)…角度β

 

● α≧5°であるときにローテーション型蹄葉炎であると判断できるとされる。※ α=0〜4°は正常馬でも確認される。

 

● βは正常値と異常値の区別が不明瞭であるため、βのみでローテーションの程度を評価することはできない。したがって、蹄葉炎の慢性期においてローテーションが進行しているかどうかは、総合的に評価する必要がある。

 

B 蹄骨が顕著に変位する前に蹄葉炎を診断する方法?
蹄骨の変位を最小限に抑えることができるかどうかが、予後を左右する。したがって、蹄骨が顕著に変位する前に蹄葉炎を診断することが理想だが、血管造影(venogram)を行わない限り難しいと考えられてきた。ところが、AAEP Round Tables(2021年10月13日)にて、レントゲン画像により早期に蹄葉炎を診断できる可能性が指摘されていた。
University of Pennsylvania’s New Bolton Centerにて蹄葉炎の研究を行っているDr. Andrew Van Epsによって説明されたもので、彼は蹄冠と伸筋突起の距離や蹄壁背側面の長さを正確に測定するとともに、レントゲン透過性の高い部分(the lucent zone)に着目し、正常ではthe lucent zoneが平行だが、蹄葉炎に罹患すると平行でなくなる、と述べた。また、正常ではthe lucent zoneは最大でも蹄骨背側面から蹄壁背側面までの距離の40〜42%程度だが、例えば48%程度であれば、蹄葉炎を疑うと説明していた。蹄骨がローテーションしている場合、ローテーションの程度が僅かでも蹄骨先端の変形(lipping)が認められることが多いが、この変形はクラブフットでも認められる。彼の述べた指標は、早期に蹄葉炎を診断する上で参考になるかもしれない。また、ローテーション型蹄葉炎の初期には、蹄骨尖に近い部分のthe lucent zoneがやや白っぽく見える、という個人的見解を聞いたこともある。今後、レントゲン画像により蹄葉炎を早期に診断する方法が確立されるかもしれない。

 

 

<参考資料>
1. Equine Laminitis p.226- 239
2. Lameness in Horses 6e p.544-545
3. G.Tacchio et al. (2002) A radiographic technique to assess the longitudinal balance in front hooves. Equine Vet. J. 34, 368-372
4. Robert L et al. (1993) Qualitative and morphometric radiographic findings in the distal phalanx and digital soft tissues of sound Thoroughbred racehorses. Am. J. Vet. Res. 54, 38-51
5. P.J.Cripps et al. (1999) Radiological measurements from the feet of normal horses with relevance to laminitis. Equine Vet. J. 31, 427-432