多糖類蓄積性筋疾患(PSSM:polysaccharide storage myopathy)<獣医師向け>

少なくとも2種類のグリコーゲン蓄積性疾患が存在することが示されている。Type1 PSSMは、常染色体領域にグリコーゲン合成酵素 (GYS1) を獲得することによって生じる。この変異は少なくとも20品種の馬で確認されているが、サラブレッドでの報告例はない。一方でType2 PSSMでは、GYS1変異が認められないが、筋肉内に過剰量のグリコーゲン蓄積が観察される。Type2 PSSMの遺伝子型は特定されていない。

 

臨床徴候
● PSSMの馬の多くは大人しく、落ち着いた性質を呈す。運動への抵抗、運動不耐性、顕著な筋拘縮が運動開始時に見られる。
● 労作性横紋筋融解症の徴候を頻繁に呈すか、持続的に低パフォーマンスである場合が多いが、軽症例では臨床徴候がないか、労作性横紋筋融解症の発症が年に1-2回のみである場合もある。
● 震えはPSSMの徴候であると言われていたが、近年の研究により、因果関係がないことが示された。
● 重種ではType1 PSSMに罹患していても運動しなければ徴候を呈さないが、筋量の低下が観察されたり、筋量低下により後肢の挙上が難しくなったりすることがある。重種のType1 PSSM有病率はかなり高いため、重種の血統を継ぐ温血種はType 1 PSSMを発症する可能性があると考えられるが、ヨーロッパの温血種におけるPSSMはType2 PSSMである場合の方が多い。
● PSSMに罹患した温血種の主な臨床徴候は弾発力の欠如や体重移動の減少であり、跛行と診断されない歩様違和が稟告となる。後肢の繋靭帯を損傷した後にType2 PSSMの蓄積を伴うことが多く、後肢の歩様が異常となり、後肢が馬体の下に入り込んで馬体重を支えるエンゲージメントの能力が欠ける。また、PSSMに罹患した温血種は間欠的に筋肉痛や労作性横紋筋融解症の徴候を呈す。
● 安静時でも臨床徴候が観察できる場合には血清中CK濃度の上昇が確認でき、15分の速歩運動を行った4時間後に1,000IU/L以上の数値を呈した例もある。筋委縮、腎不全、重度な疝痛様徴候は、まれに観察される。

 

原因
● Type1 PSSMの馬では筋肉内グリコーゲン濃度が1.5〜4倍となる。これは、GYS1遺伝子の機能獲得によりグリコーゲン合成が無秩序に増加するからである。
● アミラーゼ抵抗性となった異常多糖類はグルコース直鎖の割合が多い多糖類であり、グルコース分枝鎖を合成する酵素の活性が相対的に低下することに起因する。
● 血中インスリン濃度の上昇によりグリコーゲン合成が促進されるため、GYS1変異のある馬の筋肉痛はインスリン感度の上昇や血糖値・血中インスリン濃度の上昇によって悪化するかもしれない。
● Type2 PSSMの原因は現時点では不明である。

 

<参考資料>
Lameness in Horses 6e p.950-955