PPIDの症状はどのように進行する?

初期症状
● 体毛異常
体毛のわずかな異常を呈す。冬毛が抜けるのが遅れ、毛が長く、くすんだ色になる。毛の抜け換わりの時期は日の長さ、つまり緯度によって決まるので、同じ牧場にいる他の馬と比較すると良い。冬毛の大部分が抜けても四肢の掌側・底側部、肘下、下顎の下に毛が残っていることが多い。
● 代謝の変化
特に馬メタボリック症候群と診断されていた馬が急速に痩せることが多い。肥満馬の筋量が減少し、体重を維持するためには多くのカロリーを必要とするようになる。獣医師は体重減少が適切なものか、加速しているか判断しなくてはならない。多くの場合、筋量の減少は数か月程度で生じ、加齢によるものと比べて早い。
● 局所的な脂肪組織の沈着
たてがみの根本と尾根部に付いた脂肪組織は馬メタボリック症候群で特徴的に見られるもので、PPIDが進行している間、ボディ・コンディション・スコアが低下しても残る。このような特徴が見られる場合はインスリン調節に異常が生じており、蹄葉炎を発症しやすいと言われるが、確固たる科学的根拠はない。
● パフォーマンスの低下、一般状態の変化
これらの症状は曖昧でありPPIDに特異的なものではないが、初期のPPIDで見られる徴候のひとつである。ぼんやりしていて、性格が変わった、活力がなくなった、などと表現される。
● 蹄葉炎
初期・後期PPIDで見られる。インスリン抵抗性の増大に起因する高インスリン血症によって発症するとされる。(なぜクッシング症候群(PPID)に罹患している馬は蹄葉炎を発症しやすいの?
● 繁殖障害
高齢の牝馬で不妊が問題となったとき、PPIDの可能性を考える。ただし、繁殖サイクルや子宮環境へのPPIDの影響については更なる研究が必要だ。現時点では、ペルゴリドを用いてPPIDの治療を行うと繁殖成績が上がる、と言われているものの科学的に証明されていない。異常泌乳も稟告として挙げられることがある。

 

後期症状
● 多毛症と筋委縮が最も顕著な臨床徴候である。多毛症は毛の成長期が延長することで毛の長さが長くなるために起こる。PPIDが進行すると、体毛は長くカールし、くすんだ色で正常よりも太くなる。生え換わりは遅くなり、年中生え変わらないこともある(夏でも冬毛が残っていることがある)。
● 筋萎縮は体のトップラインで顕著であり、軸上筋の萎縮も進行する。発汗に異常をきたし、発汗減少、発汗増加が認められることがある。多飲多尿は野外で管理されている場合は発見されにくいが、PPIDで見られる徴候の1つである。

 

なぜPPIDに罹患すると多尿を呈すのか?<獣医師向け>
PPID罹患馬では、原発性の多渇や尿崩症と比べると軽度であるものの、多尿が認められることが多い。犬猫のクッシング症候群ではコルチゾルがバソプレシンの作用を拮抗するために多尿を呈すと言われるが、馬のPPIDでは必ずしも副腎皮質が肥大する訳ではなく、コルチゾル分泌量も比較的低量である場合が多い。では、PPID罹患馬はどのようなメカニズムにより多尿を呈すのか。

 

PPID罹患馬が多尿を呈すメカニズムとして、今のところ、以下の3つが提唱されているようだ。
@ ポリオピオメラノコルチン由来ホルモン、特に副腎皮質刺激ホルモンの増加により副腎皮質機能亢進症が生じるために高血糖が生じる。血糖値が尿細管の糖再吸収の閾値を超えることで浸透圧性利尿が生じ、多尿が生じる。ウマの糖再吸収の閾値は小動物よりも低く、血糖値が150mg/dLを超えると糖尿に至る。この説がもっとも一般的だが、ある報告では、PPID罹患馬5頭中、糖尿が認められたのは1頭のみだった。
A コルチゾルが集合管におけるバソプレシンの作用を拮抗することで多尿が生じる。これはイヌの副腎皮質機能症における多尿の原因であると言われるが、イヌとウマにおいて、この説を裏付ける実験結果は得られていない。さらに、コルチコステロイドのバソプレシン拮抗作用は動物種によって差があるため、動物種によっては口渇作用の方が重要であるかもしれない。
B 下垂体中葉の肥大によりバソプレシンを貯蔵する下垂体後葉やバソプレシンを生産する視床下部核(下垂体の背側に位置する)が傷害され、バソプレシンの生産量・放出量が減少することで多尿が生じる。PPID罹患馬の中には飲水量を制限したときに尿の濃縮能力が認められるものがいるため、全てのPPID罹患馬が中枢性尿崩症を発症する訳ではない。

 

PPID罹患馬に認められる多尿は、以上のような複数の要因が複合的に作用することで生じるものだろうと考えられている。

 

<参考資料>
1. Current Therapy in Equine Medicine 7 p.574
2. Equine Internal Medicine 3e p.1262-1266