レントゲン検査によりトウ骨(navicular bone)の状態を推定する方法

トウ骨(navicular bone)の状態を推定するための蹄レントゲン画像の撮影方法
トウ骨の状態を推定するためにはには、以下の3種のレントゲン画像を撮影する。

@ 外内側像(lateromedial view)
A 背側近位 - 掌側遠位 斜位像(dorsoproximal - palmarodistal oblique view)
 (1) upright pedal view
 (2) high coronary view
B 掌側近位 - 掌側遠位 斜位像(palmaroproximal - palmarodistal oblique view)
 (1) palmar 45°proximal - palmarodistal oblique view
 (2) palmar 30°proximal - palmarodistal oblique view

 

レントゲン検査によりトウ骨の状態を推定することはできるが、MRIなどを用いない限りナビキュラー症候群を確定診断することはできない。X線異常所見の臨床的意義 (跛行との関連性) を疑問視する声もある。
斜位像を撮影する前に蹄叉側溝や中心溝に粘土やワセリンを詰めることで、トウ骨を観察しやすくなる。空気を含ませないように注意し、最小限の量を詰めると良い。

 

@ 外内側像(lateromedial view)

トウ骨屈腱面(蹄側面蹄冠の中心から1cm下を目安とする)にポインターを合わせて撮影する。

 

2000年発表の文献にて報告されている外内側像X線所見の臨床的意義
(X線所見に基づくナビキュラー症候群の診断法は確立されていない)

臨床的意義が大きい異常所見

〇 屈腱面緻密骨に局所的にX線透過性の高い領域が認められる
〇 海綿骨領域のX線透過性が低下している
〇 緻密骨と海綿骨の境界が不明瞭である
〇 近位縁に辺縁が不明瞭な骨増生が認められる

臨床的意義が小さい異常所見

〇 屈腱面緻密骨のX線透過性が亢進している
〇 屈腱面緻密骨の厚さが一定でない
〇 近位縁に辺縁が明瞭な骨増生が認められる

正常所見 〇 滑膜窩が深い

 

● 屈腱面において両端が滑らかな陥没がよく観察されるが、陥没が緻密骨に至る場合は臨床的意義が大きい (跛行の原因になる可能性が高い) と考えられている。
● 関節面と骨稜の間に見られるV字状の切り込みは滑膜窩と称される。切り込みが深くても正常であるとされるが、関節面付近まで至る窪みは異常所見であると考えられている。ちなみに、滑膜窩の下に見られる骨稜には不対靭帯(distal sesamoidean impar ligament)が付着する。
● トウ骨全体のX線透過性が低く、緻密骨と海綿骨の境界が不明瞭である場合、トウ骨の骨硬化が進行している可能性が高いとされる。ただし、十分なX線量が必要である。
● 温血種に比べてサラブレッドでは屈腱面の緻密骨が薄い傾向がある。反対肢の蹄レントゲン画像と比較することで屈腱面の緻密骨が薄くなっていないか判断すると良い。屈腱面の緻密骨が顕著に薄くなっている場合、異常である可能性がある。ただし、真横からトウ骨屈腱面にポインターを合わせてX線画像を撮影する必要がある。
● 深屈腱の石灰化が認められる場合、慢性的な腱損傷があると推定されるため予後が悪いと考えられている。

 

A 背側近位 - 掌側遠位 斜位像(dorsoproximal - palmarodistal oblique view)
(1) upright pedal view

蹄冠の 2-3cm上にポインターを合わせて撮影する。また、撮影の際には、蹄尖部がはまり込むように刻みを入れた木のブロックを用いると良い。高さ25cm程度のブロックを用いると、馬が静止する場合が多い。

 

90°upright pedal viewでは遠位縁(distal border)が蹄関節に重なってしまい、観察しにくい。

 

(2) high coronary view

● カセッテに対してX線が垂直に照射されていないため、レントゲン画像にゆがみが生じる。しかし、静止させることが難しい馬でも撮影しやすいため、upright pedal view の代替法として好まれる。
● X線照射角度は60°以下とされる。照射角度60°で撮影した後、照射角度を 10-15°程度小さくして撮影しておくと良い。
● 蹄冠の約2cm上にポインターを合わせて撮影する。

 

2000年発表の文献にて報告されている背側近位 - 掌側遠位斜位像X線所見の臨床的意義
(X線所見に基づくナビキュラー症候群の診断法は確立されていない)

臨床的意義が大きい異常所見

〇 遠位縁に接続しないX線透過性の高い領域が存在する
〇 近位縁に顕著な骨増生が認められる

臨床的意義が小さい異常所見

〇 遠位端に多様な形のX線透過性の高い領域が観察される
〇 近位縁に辺縁が明瞭な骨増生が認められる
〇 トウ骨が左右非対称である

 

● トウ骨遠位縁には、多様な形のX線透過性の高い領域が観察される場合が多い。かつてはX線透過性の高い領域の形によるスコアリングが提唱され、数字(下図)が大きいほど臨床的意義が大きい (跛行の原因になる可能性が高い) とされていたが、X線透過性の高い領域の形が異常であることと跛行との関連性は低いことが多くの文献により証明された。一般的に、数が多く (7つ以上)、骨硬化部に裏打ちされている場合には臨床的意義が大きいと考えられている。また、遠位縁以外にも同時にX線透過性の高い領域が存在する場合には異常所見であると言える。
● X線透過性の高い領域が遠位縁に接続していない場合は屈腱面にX線透過性の亢進した領域が存在することを意味するため、レントゲン検査時に跛行を呈していなかったとしても今後跛行を呈す可能性が高いとされる。したがって外内側像と掌側近位 - 掌側遠位斜位像を注意深く確認し、病変が屈腱面の緻密骨に達しているのか否かを判断する。緻密骨に達している場合、深屈腱が癒着する可能性が高い。他の異常所見が認められなくても既に癒着している場合もあり、癒着していれば予後は悪い。

 

B 掌側近位 - 掌側遠位 斜位像(palmaroproximal - palmarodistal oblique view)
2通りの撮影方法があるが、いずれも内外蹄球の間にポインターを合わせ、屈腱面に対して平行にX線を照射する。(1) 反対肢を挙上しない場合は、図のように患肢を反対肢よりも後ろに下げた状態で負重させ、地面との角度約45°を目安にX線を照射する。(2) 反対肢を挙上する場合は、図のようにウェッジ状のブロック等を用いて患肢を約15° toe-up した状態で負重させ、地面との角度約30°を目安にX線を照射する。ただし、X線照射角度はあくまでも目安であり屈腱面に対して平行にX線を照射することが重要なため、蹄踵の高い蹄ではX線照射角度をより大きく、蹄踵の低い蹄ではX線照射角度をより小さくする必要がある。

 

(1) palmar 45°proximal - palmarodistal oblique view

 

(2) palmar 30°proximal - palmarodistal oblique view

 

 

2000年発表の文献にて報告されている掌側近位 - 掌側遠位斜位像X線所見の臨床的意義
(X線所見に基づくナビキュラー症候群の診断法は確立されていない)

臨床的意義が大きい異常所見 

〇 屈腱面緻密骨に局所的にX線透過性の高い領域が認められる
〇 海綿骨領域のX線透過性が低下している(外内側像の方が判断しやすい)
〇 緻密骨と海綿骨の境界が不明瞭である(外内側像でも認められることを確認する)
〇 関節面に骨増生が認められる

臨床的意義が小さい異常所見

〇 屈腱面緻密骨のX線透過性が亢進している
〇 屈腱面緻密骨の厚さが一定でなく、辺縁が滑らかでない

正常所見 〇 矢状稜下の緻密骨内に三日月形、または楕円形のX線透過性の高い領域が観察される

 

● トウ骨全体のX線透過性が低く、緻密骨と海綿骨の境界が不明瞭である場合、トウ骨の骨硬化が進行している可能性が高いとされる。ただし、掌側近位-掌側遠位 斜位像 (palmaroproximal - palmarodistal oblique view) ではトウ骨のX線照射角度が大きいと緻密骨と海綿骨の境界が不明瞭に見えるため、特に蹄踵の低い蹄では蹄角度に合わせて照射角度を小さくする必要がある。掌側近位 - 掌側遠位斜位像はX線照射角度に非常に影響されやすいが、レントゲン画像により照射角度が適切であったかどうか判断することができない。したがって異常であると誤診しやすいため、外内側像でも同様に緻密骨と海綿骨の境界が不明瞭であることを確認する必要がある。
● 骨増生により矢状稜の辺縁が不整である場合、予後が悪いという意見もある。矢状稜や他の屈腱面における骨増生や骨硬化は掌側近位 - 掌側遠位斜位像でしか確認することができないため、外内側像や背側近位 - 掌側遠位 斜位像よりも早期にトウ骨の変化を発見できると言われてきた。実際に、掌側近位 - 掌側遠位斜位像で屈腱面辺縁の不整が認められるものの、外内側像や背側近位 - 掌側遠位 斜位像では異常所見が全く認められない場合もあり、およそ10%の症例で掌側近位 - 掌側遠位斜位像を確認することによりX線検査の診断結果が修正されると複数の文献で報告されている。
● 矢状稜下の緻密骨内に三日月形、または楕円形のX線透過性の高い領域が観察される場合がある。これは矢状稜に小さな陥没部が存在するため、もしくは矢状稜の骨化が不完全であるためであると考えられ、異常所見ではない。

 

<参考資料>
1. Clinidal Radiology of the Horse 3e p.102-128
2. Equine Podiatry p.141-152
3. Tom De Clercq et al. (2000) A comparison of the palmaroproximal-palmarodistal view of the isolated navicular bone to other views. Vet Radiol. Ultrasound 41, 525-533