クランポン

クランポン(screw-in studs)を装着することで、特にsuspensory apparatus(繋靭帯、浅屈腱、種子骨靭帯)を傷めやすいと言われている。(前肢では、蹄が滑りにくくなると浅屈腱・繋靭帯の負担が大きくなる?

 

では、クランポンはどの位置に、どの長さ・形状のものを装着すれば良いのだろうか。残念ながら、この問いに対する答えが得られる文献は、今のところ存在しない。そこで、現時点で手元にあるクランポンに関する文献を2つ、ご紹介したい。

 

● クランポンは外鉄枝に1つ装着するだけで十分に滑り止めの役割を果たし、suspensory apparatusの負担を減らすことができるのではないか?この問いを検証するために、9頭の四肢蹄鉄・外鉄枝のみにクランポンを装着し、芝の上で駈歩の直線運動 (450m/min=26秒/ハロン) をさせた。用いたクランポンは前肢・長さ12mm、後肢・長さ23mm、いずれも尖端が尖ったもので、外鉄枝の最終釘孔と鉄尾の中間に装着した。
蹄にマーカーを付けて横からビデオ撮影し、蹄のスリップ距離を計測したところ、クランポンを外鉄枝に1つ装着することで、四肢すべてでスリップ距離が減少したが、特に顕著に減少したのは、反手前前肢・後肢だった。あくまでも9頭の平均値だが、クランポンを外鉄枝に1つ装着することで、スリップ距離は手前前肢で21%、手前後肢で19%、反手前前肢で26%、反手前後肢で22%減少した。外鉄枝のみにクランポンを装着すると着地後に蹄が回転するため、着地後の衝撃が和らぐかもしれない、と考察されている。

 

もちろん、どの馬場でもクランポンは外鉄枝に1つ装着すればよい、という訳ではないが、下肢部を傷めないために、馬場によってはクランポンの装着を外鉄枝のみにすることを検討してみても良いのかもしれない。

 

●1×1×1cmのクランポンを最終釘孔と鉄尾の中間に装着し、荷重分散センサーを用いて蹄にかかる荷重の分配を計測したデータが報告されている。馬5頭の左前肢について、コンクリート、ゴムマット、浅い(硬い)砂、深い(柔らかい)砂の上で検証すると、5頭中3頭はクランポンを装着することで地面に関わらず着地時の蹄踵への荷重が増えたが、2頭は蹄踵と蹄尖への荷重が同時に増えた。また、深い砂馬場においてはどの馬でも蹄側部への荷重が増える傾向があった。

 

当然のことだが、先着部位が異なればクランポンを装着したときに負担がかかる部位も異なる、ということだ。

 

装蹄師が長年積み重ねてきた経験と知識をもとに蹄のバランスを繊細に整えているのに、ライダーが安易にクランポンを装着することで蹄バランスが台無しになってしまう、と述べる装蹄師もいる。残念なことにクランポンに関する科学的根拠は不足しており、今後の研究が待たれる。

 

最後に、鉄頭歯鉄 (toe grab) を装着することで、suspensory apparatus (繋靭帯、浅屈腱、種子骨靭帯) の損傷や第三中手骨の骨折が起こりやすくなることを付け加えておきたい。toe grabを装着してダートでギャロップ (12-17.3m/sec=11.5-16.6秒/ハロン) させると着地時の衝撃が大きくなるとともに正常な反回を阻害するために離地が遅れるが、これは long toe でも観察される現象であり、toe grabを装着することで long toe の蹄に類似する負荷がかかりやすいと推測される。

 

<参考資料>
1. Alison M. Harvey et al. (2012) The effect of lateral heel studs on the kinematics of the equine digit while cantering on grass. Vet. J. 192, 217-221
2. Jenny Hagen et al. (2017) Modifying the height of horseshoes: Effects of wedge shoes, studs, and rocker shoes on the phalangeal alignment, pressure distribution, and hoof-ground contact during motion. J. Equine Vet .Sci. 53, 8-18
3. The Hoof of the Horse -Simon Curtis
4. Kane A.J.et al. (1996) Horseshoe characteristics as possible risk factors for fatal musculoskeletal injury of thoroughbred racehorses. Am. J. Vet. Res. 57, 1147-1152
5. B.L.Dallap Schaer et al. (2006) The horse-racetrack interface : a preliminary study on the effect of shoeing on impact trauma using a novel wireless data acquisition system. Equine Vet. J. 38, 664-670