角壁腫(keratoma)

角壁腫とは
蹄壁と蹄骨の間に形成されたケラチン(角質を構成するタンパク質)と扁平上皮細胞を含む異常組織を指す。蹄尖〜蹄側に生じる場合が多い。また、蹄底膿瘍や外傷が先行することが多いため、細菌感染が引き金となって異常組織が増殖すると推測されている。角壁腫の大きさが大きくなるにつれて知覚部が圧迫されるため、跛行が顕著になる。
蹄底組織の異常、蹄冠の膨隆が認められる場合もある。角壁腫による圧力により蹄骨の一部が壊死するため、レントゲン検査スカイビュー像において、蹄骨に円形または半円形のX線透過性の高い領域が認められる。

なぜ蹄壁と蹄骨の間に異常な組織が増殖するの?

 

葉状層は、角質側から伸びるヒダである表皮葉と蹄骨から伸びるヒダである真皮葉が隙間なく噛み合った構造をしている。表皮葉だけでなく角質すべての土台となる一層の細胞を基底細胞というが、基底細胞と真皮葉との結合は、基底細胞に存在する精密な調節機構により極めて動的に維持されていることが近年の研究により明らかになり始めている。さらに、葉状層の基底細胞の多くは幹細胞であり、蹄壁剥離、感染による損傷、蹄葉炎における葉状層の剥離などを修復するために普段は増殖能を温存している。実際に、脱蹄したとき真皮葉の表面に残っていた基底細胞が速やかに分裂増殖し、4日程度で正常に近い葉状層が再生される。基底細胞と真皮葉の間には基底膜が存在し、基底細胞が移動して分裂する足場となる。葉状層の基底細胞にはこのような性質があるため、何らかの引き金により基底細胞が分裂増殖することで角質組織を含む異常組織が形成されると考えられる。

 

治療法
● レントゲン撮影、抗菌薬の投与が必要となるため、獣医師の協力が不可欠である。
● 異常組織を外科的に完全除去する必要がある。蹄壁ごと大きく切除する方法が行われてきたが、切開創をなるべく小さくした方が感染および過剰肉芽組織生成のリスクを下げることができ、回復も早い。したがって、レントゲン撮影により位置を特定し、切除部を小さくすべきであり、位置の特定と最小限かつ完全な切除がその後の経過を大きく左右する。また、蹄底からではなく蹄壁からアプローチした方が切除部が小さくて済むだけでなく感染を防ぎやすいため経過が良好であり、運動復帰までにかかる時間も短い(蹄底からのアプローチでは平均10ヶ月だったのに対して、蹄壁からのアプローチでは平均7ヶ月だったと報告されている)。切除後、希釈ポビドンヨードをしみ込ませたガーゼをあててバンデージを巻く。浸出液が減少するまで頻繁にバンデージを取り換えることで再感染の抑制を図る。
● 切除が終了した後、感染性蹄骨炎を防ぐために球節に駆血帯を巻き、抗菌薬の局所灌流(regional limb perfusion)を行うと良い。二次感染が認められた場合は、抗生剤の全身投与が推奨される。
● 異常組織を完全に切除した後、再感染せず患部が正常に再生されれば予後は良好である。

 

<参考資料>
1. Equine Medicine 7 p.850-851
2. Lameness in Horses 6e p.527-530
3. C. M. Honnas (2011) Clinical Commentary: Supracoronary approach for keratoma removal. Equine Vet. Educ. 23, 494-495
4. J. C. Gasiorowski et al. (2011) Supracoronary approach for keratoma removal in horses: Two cases Equine vet Educ. 23, 489-493