ルード&リドル講習会:バイオメカニクスに関するデータの紹介

※ 2019年4月12〜13日にルード&リドル・エクワイン・ホスピタルにて開催されたポダイアトリー講習会におけるMaarten Oosterlinck氏の講演「装蹄療法に必要なバイオメカニクスの基礎」にて紹介されたデータとともに、関連するデータをご紹介します。

 

革パットを挿入することで着地時の衝撃が大きくなる
蹄壁に加速度計を固定し、16種類の装蹄法における着地時の衝撃を比較したところ(馬2頭、速歩4m/s、アスファルト上)、革パットを鉄製蹄鉄と蹄の間に挟んで釘付け装蹄した場合、着地時の衝撃が鉄製蹄鉄を釘付け装蹄した場合よりも大きくなった(加速度の合計を着地の衝撃と定義している)。一方で、プラスチック製蹄鉄を接着装蹄した場合、鉄製蹄鉄を釘付け装蹄した場合と比べて衝撃が小さくなり、加えてEqui-Pack Softを充填すると、衝撃はさらに小さくなった。
これは1993年に報告された研究データであり、砂地での検証を行った新しいデータは現在のところ見つけることができないが、着地の衝撃を和らげたい場合、革パッドを挿入するよりも軟らかい蹄底充填剤を充填した方が良さそうだと考えられる。

 

ちなみに、跣蹄のときよりも、鉄製蹄鉄を装着したときの方が着地時の衝撃が大きいが、衝撃の大部分は蹄壁と蹄骨の間で吸収されている。これは、オランダ温血種14頭の蹄壁、蹄骨、管骨に加速度計を固定してアスファルト上を速歩(3.6m/s)させ、測定したデータにより明らかになったもので(加速度の合計を着地の衝撃と定義している)、鉄製蹄鉄を装着したとき蹄壁に伝わる衝撃は38%増加したが、跣蹄と同様に73〜74%程度の衝撃が蹄壁と蹄骨の間で吸収されていた。これは、鉄製蹄鉄を装着することで蹄骨や葉状層の負担が大きくなり、蹄骨炎などに罹患しやすくなることを意味する。また、蹄壁と蹄骨の間で吸収されなかった衝撃は主に冠関節や球節で吸収されることになるため、関節炎のリスクも大きくなると考えられる。

装蹄師以外の皆様へ

 

鉄製蹄鉄を装着することにデメリットがあるからと言って無理に跣蹄にしてしまうと、蹄が悪くなり日々の運動に耐えられない状態になってしまう場合が多いということは、是非理解して頂きたいところです。また、鉄製蹄鉄を装着することでデメリットを上回るメリットが得られる場合も多くあります。すべての処置にはメリットとデメリットがあるため、蹄の状態を把握している専属装蹄師にご相談することをお勧めします。

 

トウ骨(遠位種子骨)にかかる力は鉄製蹄鉄を装着することで14%増加し、6°heel-wedgeを挿入することで24%減少する
厚さ10mmの鉄製蹄鉄(平均478g)を装着したとき、トレッドミル上の速歩(4.0m/s)においてトウ骨にかかる力の最大値は跣蹄のときより14%増加した(オランダ温血種12頭、フォース・プレートおよびスキン・マーカーを用いた動作解析から算出)。一方で、厚さ8mmの鉄製蹄鉄に6°heel-wedgeを挿入すると(平均437g)、?骨に加わる力の最大値は跣蹄のときより24%減少した。トレッドミル上の速歩においては、厚さ8mmのエッグバー蹄鉄(平均466g)を装着しても、トウ骨にかかる力の最大値は厚さ10mmの鉄製蹄鉄(平均478g)装着時とほとんど変わらなかった。

 

以上のデータが報告されているため、アメリカにおいても、ナビキュラー症候群が疑われる馬に対して短絡的にヒール・ウェッジの挿入を指示する獣医師が多いと嘆くアメリカ人装蹄師に複数出会ってきた。ひとくちに「ナビキュラー症候群」と言っても傷めている箇所は様々であり、ヒール・アップによって良好な結果が得られない場合もある。(ナビキュラー症候群の装蹄法

 

また、トレッドミル上の速歩においては、エッグバー蹄鉄を装着してもトウ骨にかかる力の最大値はほとんど変わらないという結果が出ているが、エッグバー蹄鉄を装着すると軟地では蹄踵が沈み込みにくくなり、ヒール・ウェッジの挿入に類似する効果が生じる場合がある。実際に、4頭のフレンチトロッターにエッグバー蹄鉄を装着して砂馬場で常歩させると着地後に蹄踵が沈み込みにくくなり、最大荷重時に蹄踵が約5°上がった状態になった、と報告されている。ちなみに、通常の鉄製蹄鉄装着時には、最大荷重時に蹄踵が約1°沈み込んだ状態になった。したがって、この条件下では、エッグバー蹄鉄を装着して砂馬場で常歩させた場合、硬地上で6°heel-wedgeを挿入している状態に相当した。したがって、軟地上では、エッグバー蹄鉄の装着によりトウ骨にかかる力が減少する場合があると考えられる。

 

同様に、硬地上では、前肢に側鉄唇付設蹄鉄をセットバック装着しても、あるいは、ナチュラル・バランス・シューを装着しても、トウ骨にかかる力は通常の鉄頭鉄唇付設蹄鉄装着時と同じだった、と報告されている。この結果もフォース・プレートを用いて導き出されたデータであり(馬9頭、両前肢、硬地上速歩)、軟地における調査が待たれる。

 

後肢では、反回点を下げても硬地上の速歩においては推進力を低下させることなく蹄の自然な反回を促進させると報告されている。温血種10頭の後肢に@鉄頭鉄唇付設蹄鉄、A側鉄唇付設蹄鉄、B側鉄唇付設・鉄頭部下狭蹄鉄(rolledtoe)を装着して比較した結果、3種の蹄鉄により推進力に差は生じないが、頭部下狭蹄鉄では蹄の反回が制限されず、反回点がより外側に位置したため、反回点を下げることによって推進力を低下させることなく、馬の自然な動きを発揮させることができると考察されている。しかし、これもフォース・プレートを用いて検証したデータであり、軟地上における推進力への影響は不明である。

 

装蹄に関するデータを読み解く場合には、当然ながらどのような地面上で検証したのかを確認しなければならない。近年、マーティン・オースターリンク氏やジェニー・ヘーゲン氏などの研究者により、薄い圧力センサーを蹄鉄と蹄の間に挿入することで多様な地面における蹄への圧力のかかり方を計測したデータが報告されるようになってきている。多様な実験データは、検証条件を理解したうえで読み込めば大変興味深いが、検証により得られた結論を短絡的にすべての馬に当てはめることはできない。

 

内向蹄では蹄尖先着になる傾向が認められるとともに、荷重の内外対称性は内向蹄のない健康馬と比べて低い
重度な内向蹄をもつ馬は運動器疾患の罹患率が高く、競技からの引退が早くなると考えられているが、科学的根拠は乏しいため、圧力センサーを用いて内向蹄をもつ温血種5頭・両前肢の蹄荷重を調べたところ、両前肢ともに5頭中4頭は蹄尖先着、1頭は蹄踵先着だった。また、荷重の内外対称性は内向蹄のない健康馬と比べて低かったことから、内向蹄が運動器疾患の原因となる可能性が示唆される。また、圧力センサーを用いれば、跛行が確認される前に蹄荷重の変化を測定できる可能性がある。ちなみに、研究に用いた5頭の馬は測定の2週間前に経験豊富な装蹄師によって削蹄され、硬地および軟地における直線・回転運動の観察により跛行が認められないことが獣医師によって確認されている。

 

ちなみに、削蹄により着地後に蹄が安定するまでの時間が顕著に短くなるものの、先着部位は変わらないと報告されている。荷重分散センサーを用いて蹄にかかる荷重の変動を測定したところ(温血種18頭、速歩)、着地後に蹄が安定するまでの時間は削蹄後に顕著に短くなったものの、削蹄前後で先着部位に変化は見られなかった。着地後に蹄が安定するまでの時間は削蹄後でも後肢で前肢の2倍以上だが、前肢の方が後肢よりも削蹄後に蹄が安定するまでの時間が顕著に短くなった。ちなみに、この「着地後に蹄が安定するまでの時間」は人の目では観察できない。また、着地後に蹄が安定するまでの間、荷重が蹄外側に偏っていた馬の割合は前肢で装蹄前63.3%(装蹄後57.8%)、後肢で装蹄前97.8%(装蹄後96.7%)だった。

 

また、ウェッジ・パッドを用いて前肢・蹄外側を4°上げても、先着部位の一貫した変化は認められなかった。ウェッジ・パッドを鉄製蹄鉄と蹄の間に挿入することで馬5頭の左前肢・蹄外側を4°上げ、圧力分散センサーを用いて蹄にかかる荷重の変動を測定したところ、先着部位の一貫した変化は認められなかった。5頭中2頭はウェッジ・パッド挿入前の先着部位が蹄内側だったが、蹄外側を4°上げることで平坦踏着になった馬は1頭のみだった。また、1頭ではウェッジ・パッドを蹄外側に挿入した後、先着部位がやや蹄外側に移動した。研究に用いた5頭の馬は、測定直前に経験豊富な装蹄師によって装蹄された。

装蹄師以外の皆様へ

 

多くの装蹄師は装蹄前後の歩様を観察しますが、それぞれの馬に固有の歩き方を注意深く観察することで、馬が運動しやすいように蹄の形やバランスを整えています。蹄冠が外側に向かって傾いているからと言って内側を多削すれば良いという訳ではありませんし、著しく内に向いている蹄を無理やり外に向けようとすれば、どこかに無理が生じます。蹄以外のどこかに痛みがあれば歩き方の変化に伴って蹄が歪みますし、肢がどこかで大きく曲がっていれば、左右対称な蹄は育ちません。

 

<参考資料>
1. Benoit P, Barrey E, Regnault J.C, Brochet J.L. (1993) Comparison of the damping effect of different shoeing by the measurement of hoof acceleration. Acta. Anat. (Basel) 146, 109-113
2. M.A.Willemen, M.W.H.Jacobs, H.C.Schamhardt. (1999) In vitro transmission and attenuation of impact vibrations in the distal forelimb. Equine Vet. J. Suppl. 30,245-248
3. M.A.Willemen, J.H.C.M.Savelberg, A.Barneveld. (1999) The effect of orthopaedic shoeing on the force exerted by the deep digital flexor tendon on the navicular bone in horses. Equine Vet. J. 31, 25-30
4. Chateau H, Degueurce C, Denoix J.M. (2006) Effects of egg-bar shoes on the 3-dimensional kinematics of the distal forelimb in horses walking on a sand track. Equine Vet. J. Suppl. 36, 377-382
5. E. Eliashar, M.P.McGuigan, K.A.Rogers, A.M.Wilson (2002) A comparison of three horseshoeing styles on the kinetics of breakover in sound horses, Equine Vet. J. 34, 184-190
6. B. Spaak, M.C.V.vanHeel, W.Back (2013) Toe modifications in hind feet shoes optimize hoof-unrollment in sound Warmblood horses at trot. Equine Vet.J. 45, 485-489
7. Marrten Oosterlinck, Roxanne Van der Aa, Eline Van de Water, Frederik Pille (2015) Preliminary evaluation of toe-heel and mediolateral hoof balance at the walk in sound horses with toed-in hoof conformation. J. Equine Vet. Sci. 35, 606-610
8. Jenny Hagen, Michael Huppler, Florian Hafner, Sandra Geiger, Daniela Mader (2016) Modifying horseshoes in the mediolateral plane: Effects of side wedge, wide branch, and unilateral roller shoes on the phalangeal alignment, pressure forces, and the footing pattern. J. Equine Vet. Sci. 37, 77-85
9. M.C.V.van Heel, A.Barneveld, P.R.van Weeren, W. Back (2004) Dynamic pressure measurements for the detailed study of hoof balance: the effect of trimming. Equine Vet. J. 36, 778-782