レントゲン画像は装削蹄のガイドとして使えるのだろうか?(アメリカン・ファーリアーズ・ジャーナル記事の紹介)

※ アメリカン・ファーリアーズ・ジャーナル2017年12月号 (p.28-33) に掲載された記事の概要をご紹介します。

以下の掲載内容は、Monique Craig の主張をご紹介するものです。

 

装蹄は、難しい仕事だ。身体的な負担が大きいだけでなく、蹄の外観の変化から内部構造を推測するという超人間的な視点を求められる。新しいクライエントを引き受けた時、必ず、誰か別の人の仕事を引き継ぐことになる。蹄はゆがんでおり、それを直すように求められるかもしれない。それに加えて、競技、馬の品種、肢勢に合わせて装蹄しなければならない。そして、1頭の馬で成功したことが、必ずしも他の馬で成功するとは限らない。1頭として同じ馬はいないのだから、すべての馬に適用できるルールは存在しない。
対称性と蹄底の目印のみに基づいて削蹄することは危険だ、と2017年のインターナショナル・フーフ・ケア・サミットでMonique Craig氏が述べた。彼女は、削蹄の際に、骨の位置を触って確かめることを装蹄師に提案している。レントゲン画像と照らし合わせていけば、内部構造を推定する方法がわかるかもしれない。

 

Monique Craigについて
研究者で、装蹄師でもあり、装蹄師のコンサルタントとしても活躍している。「蹄−形態学に基づく削蹄法・装蹄法(The modern look at…THE HOOF Morphology〜Measurement〜Trimming〜Shoeing)」という本を出しており、また、Epona Shoeの考案者である。

 

関節の回転中心
3つの関節の回転中心の位置を理解すことは、装蹄する上で役立つ。関節面を外観から推測することは難しいが、レントゲン画像と形態学的測定法を用いれば、2つの指節間関節と球節を描出することができる。
X線ラテラル画像上で関節面に合わせて円を描くことで、関節の回転中心の位置を推測することができる。
蹄関節の回転中心

 

蹄尖から蹄踵までの長さを蹄関節の回転中心から負重面に下ろした垂線が二分するように装蹄するべきだ、と古くから言われてきた。しかしMonique Craigは、注意が必要だと言う。彼女の研究では、多数の馬を観察したところ、蹄関節の回転中心が蹄尖から蹄踵までの距離を50:50に分けていた蹄は存在しなかった。蹄尖から回転中心 / 回転中心から蹄踵の平均は67.8%で、蹄の形態によって異なった。測り方にもよるが、ほとんどの測定法で、馬の蹄には50/50ルールが当てはまらない。
蹄関節の回転中心が蹄尖から蹄踵までの距離を50:50に分ける蹄は存在しない
このように、統計学的な研究により「何が正常なのか?」という問いに対する洞察が提示されている。また、レントゲン画像を用いた測定法を用いる場合、どのように撮影されたかということに気を配る必要がある。

 

レントゲンの背掌側像(蹄レントゲン画像の見方)で内外方向のバランスを推測し、蹄関節面が地面に平行になるように削蹄することは推奨されないが、蹄関節面と地面との角度を評価することは、無駄ではない。
蹄の内外バランスを測定するテクニックは、いくつか存在する。例えば、蹄骨の下縁と地面が平行になるように削蹄すべきだ、という主張が見られる。しかしMoniqueCraigは、蹄関節を通る直線を参考にするように推奨している。彼女は、すべての方法を検証した結果これが最も正確であり、蹄骨の遠位辺縁を参考にするよりは、危険が少ないと主張している。馬によって蹄骨の形は実に様々だからだ。

 

肢の非対称性
蹄と同様に、肢のほとんどの骨は非対称である。Monique Craigは、数多くの馬を用いて非対称性を計測する研究を行ってきた。
例えば、第一指骨(P1)はおよそ3度傾いており、6度ねじれているものが多い。これにより、球節面が傾き、外側に下がって見える。したがって、蹄関節面と球節面が両方とも地面に平行になるように削蹄することは不可能だ、と彼女は主張する。蹄骨自体も、非対称だ。これにより、内側の蹄壁は外側よりも立っていることが多い。したがって、内外の蹄壁も、同じ長さにはならない。内外の蹄壁の角度を同じにするように削蹄すれば、蹄骨は地面に対して傾くだろう。多くの本や記事で対称性について議論されているにも関わらず、蹄や骨はかなり非対称なのだ。

 

骨の形の変化
Monique Craigの研究は、時間を経ると骨の形が変化することも示している。レントゲンのラテラル像において蹄骨の掌側面を測定すると、蹄骨の掌側面にどのくらいの凹面が存在するか、推定することができる (Palmar Metric法)。馬が年齢を重ねると、蹄骨の掌側面はあまり指標にならない。ある程度の脱灰が生じるのが普通だからだ。究極なフ―フ・ケアとは、蹄骨の脱灰を最小限にする装削蹄、給餌、運動を明らかにすることなのかもしれない。
Monique Craigは、蹄葉炎においてはPalmar Metric法を重要視するが、これは、骨の脱灰と骨の変位により生じる葉状層組織の傷害が大きな問題になるからだ。レントゲンを撮るたびにPalmar Metric法による測定を行い、短期間に大きな変化があれば重大な問題が生じていると考え、より踏み込んだアプローチを行う。

 

削蹄時に骨の位置を参考にする
蹄の形は、削蹄、装蹄、騎乗、気候などによって変化する。こんなに変化するのに、なぜ蹄底や蹄叉、白帯が削蹄の目印になるのだろう。私たちは蹄の裏を切っているが、裏だけを見て削蹄すると、フレアなどの歪みを修正しづらい。
骨の位置を参考にした削蹄法は、解剖学に基づいて骨を触知する方法で、蹄底や蹄壁の形をただ観察するものではない。この方法が使えない蹄もあるが、骨を触知することで、ゆがみやすい蹄の外観的な目印に頼って削蹄しなくてもよくなる、とMonique Craigは主張する。

 

「蹄冠の隙間」は、削蹄時あるいは蹄鉄装着時の目安として使えるとMonique Craigは説明する。蹄関節が屈曲するとき、解剖学的に、第二指骨が動くためのスペースが必要だ。このスペースは手で触知できるものなので、彼女は「蹄冠の隙間」と呼んでいる。蹄冠の隙間は指で押したときに柔らかく感じる部位で、第二指骨の場所に関連する。ただし、ゆがんだ蹄で蹄冠の隙間を触知することは難しい。もし触れなければ、第二指骨の遠位端を探すと良い。これは必ず触知できる、と彼女は言う。

 

 「蹄冠の隙間」

 

蹄冠の隙間が触知していないとき、蹄は必ずゆがんでいる。そして、蹄がゆがんでいるとき、軟部組織も必ずゆがんでいる。蹄軟骨でさえ、移動する。白帯の位置は変化し、蹄叉尖も参考にならない。そして、蹄は非対称だ。したがって骨の位置を参考にするべきであり、この手法を用いれば、レントゲン画像がなくても、骨の位置を推測することができる、とMonique Craigは主張する。

 

より良い結果を求めて
蹄は、もともと十分な適応力がある。削蹄方法や蹄鉄、蹄鉄の装着位置、騎乗運動、気候などに蹄は適応していく。Monique Craigはスイスで育ったが、スイスでは、冬の間、馬を跣蹄にして蹄の形が回復するのを待ったものだ、と彼女は言う。どのように蹄がゆがんでいるのか、また、蹄内部で何が起こっているのかわからないときは、1〜2ヶ月馬を放牧地に放すと良い。病理学的な問題がなければ、このような休養によって、馬とその蹄は十分に回復する。しかし、競技馬では、このような贅沢はできないことも知っている。
1頭として同じ馬はいないのだから、すべての馬に当てはまるルールなど1つもない、とMonique Craigは強調する。良い装蹄師は、すべてのデータを頭の中で分析して、最善の決定を下すものだ。