ベルギー研究発表会:競技馬の飼料給餌を考える

2019年9月19〜21日にベルギー・ゲントにて開催された「馬のスポーツ医療とリハビリに関する研究発表会」におけるMark Bowen氏の講演の一部をご紹介します。

 

● 軽い運動では30〜40%のエネルギーが炭水化物によって賄われるが、ギャロップのエネルギーは全てグリコーゲンから生成される。グリコーゲンの主な源はデンプンである。長時間の持久運動が求められるエンデュランス競技でも、極度の疲労状態に陥らないためにグリコーゲンの枯渇を防ぐことが重要である。

 

● デンプンの消化率は、唾液中のα-アミラーゼ含有量により大きく制限される。したがって、アミラーゼを飼料に添加することでデンプンの消化子効率を上げるとともに、より多量のデンプンを給餌することができるようになる。

 

● 胃潰瘍のうち、特に腺部の潰瘍は騎乗時の従順さ(rideability)、無線部の潰瘍は最大酸素摂取量(VO2max)の低下に関連する。腺部潰瘍の原因は明らかになっていないが、遺伝的要因が指摘されている。一方で、無線部潰瘍の発症リスクは低繊維高デンプン食(デンプン含有量>2g/kg乾物重量)の給餌により上昇するため、デンプンの給餌量を減らすとともに給餌回数を4〜6回に増やすことで唾液の分泌量を増加させると良い。また、4種の物質:ペクチン(消化率が非常に良い繊維で、その消化率はデンプンと同程度だとされる)、レクチン(リンを含む脂質の一種)、イースト菌 (Saccharomyces cerevisiae)、酸化マグネシウム(過剰な胃酸を中和する)を飼料に添加することで無線部潰瘍の発症リスクを下げる効果が確認されたほか、コーン・オイル(体重1kg当たり0.1mL)の添加も有用だと報告されている。ビートパルプにはペクチンが多量に含まれているため、ビートパルプを濃厚飼料と置き換えることで費用をかけずに無線部潰瘍の発症リスクを下げることができるかもしれない。

 

● 頻繁に疝痛を発症する馬では、デンプンの給餌量を下げる代わりに、油の給餌量を増やすと良い。特にオメガ3脂肪酸(魚油に多く含まれる)には抗炎症効果があるため、給餌の有用性が高い。また、切草を与えることで腸管の動きを促進することができる。特に、1日の給餌量は変えずに給餌回数を4〜6回に増やすと良い。

 

● クレアチンは強壮剤として飼料に添加されることが多く、筋肉のホスホクレアチン含有量を増加させる。ホスホクレアチンは骨格筋にとって重要なエネルギー貯蔵物質であるため、クレアチンを飼料に添加することで嫌気的エネルギー(瞬発力を生み出すエネルギー)の産生量が増加する。グリコーゲンの補充速度も促進するが、好気性エネルギーの産生量には影響しない。

 

● βアラニンを添加することで筋肉のカルノシン含有量が増加する。カルノシンは筋肉内で緩衝作用を担うため、特に強い運動をする馬では有用性が高いと考えられている。多くのサプリメントに添加されているが、パフォーマンス向上効果は確認されていない。