急性蹄葉炎では過度に heel-up してはいけない?

近年、急性蹄葉炎を発症した際に、深屈腱のテンションを緩めるために過度にheel-upすることは誤りである、という主張が見られる (蹄踵が潰れていて後方破折している場合には、趾軸を一致させる程度のheel-upは許容される)。

 

急性蹄葉炎において過度にheel-upしてはいけない、という主張の根拠は、heel-upすることで蹄骨への力のかかり方と葉状層の向きが変わるため、結果的に蹄骨にかかる体重により葉状層が剥がれやすくなる、ということである。heel-upすることで確かに深屈腱のテンションは緩むが、このメリットは、蹄骨への力のかかり方と葉状層の向きが変わるというデメリットで打ち消されてしまう、という訳だ。

蹄角度が正常範囲内(45〜55°程度)であるときの蹄骨への力のかかり方と葉状層の向き

 

過度にheel-upしたときの蹄骨への力のかかり方と葉状層の向き

 

これは、急性蹄葉炎では、PAを18-20°まで上げるべき、というドクター・レドンの主張と矛盾する。日本ではドクター・レドンの見解が広まっているため、急性蹄葉炎が疑われた場合にACS(Advance Cushion Support)を用いて大きくheel-upする場合が多いが、近年の研究成果の中には、この方法を否定するものがあることを認識しておく必要がある。
ただし、近年の研究成果の多くは蹄のコンピューターモデルを用いて導き出されたものが多く、今後、研究が進むことで結論が大きく変わるかもしれない。コンピューターモデルを設計する際の前提条件がわずかに変わるだけで、結論が大きく変わる可能性があるからだ。

 

レドン先生も、次のように述べている。
「死蹄の解剖や蹄のコンピューターモデルから得られるデータは非常に興味深いが、生きた馬で得られる結論のみに真の価値があると私は考えている。コンピューターモデルが導き出す結論と、生きた馬から得られる結論はしばしば矛盾する。例えば、コンピューターモデルを用いた研究では、厚尾蹄鉄やヒールウェッジ等で蹄踵を上げると葉状層にはたらく剪断力が大きくなるため、蹄葉炎において蹄踵を上げるのは危険だという結論が導き出されているが、私は数えきれない症例で蹄踵を上げて良い結果を得ている。」

 

重要なのは、ひとつの意見を盲信しないことだと思う。

 

<参考資料>
Equine Laminitis p.39-47