頸椎の変形性関節症

頸椎の変形性関節症とは
変形性関節症とは炎症により骨の関節面が変形する疾患である。頸椎の椎間関節(intercentral joint)や関節突起間関節 (articular process joint)の変形性関節症により、脊髄自体や脊髄から出る神経が圧迫されることで腰痿(いわゆる腰フラ)、頸の疼痛、前肢の前方短縮(いわゆる肩跛行)が発現する。

頸椎の外側面(横から見た図)

 

頸椎の頭側面(前から見た図)

 

変形性関節症はC5-C6、C6-C7に認められる場合が多い。これは、可動域の大きい部分に負担がかかりやすいためであると考えられる。C5-C7の脊椎管(spinalcanal)は比較的広いので変形性関節症により脊椎管が狭窄することは少ないが、関節突起間関節の滑液包の腫脹により脊髄が圧迫されて運動失調を呈したり、変形性関節症の痛みにより前肢の前方短縮(いわゆる肩跛行)や頸の疼痛を呈したりする。

 

臨床徴候
(1) 腰痿(いわゆる腰フラ)、四肢の運動失調が認められる場合
● 変形した頸椎が脊髄を圧迫することで腰痿 (いわゆる腰フラ) を呈す場合がある。脊髄の固有受容感覚(目を閉じていても、自分の手や足の位置と、それを動かしていることが分かる感覚:proprioception)を司る部分が傷害されるために四肢に運動失調が起こるが、後肢の運動失調が目立つ場合が多く、腰痿 (いわゆる腰フラ) と称される。後肢の運動失調が目立つのは、後肢の固有受容感覚を司る領域がより表層に位置するためである。前肢の運動失調が目立つこともあるが、これは主にC6-C7において中心性に脊髄を傷害したためであると推定される。
●測定過大、蹄尖摺曳、叩地、開脚が認められることが多く、歩き始めや停止直後に強調される。重症例では運動失調が顕著であり、駐立時に前肢を大きく広げて立ち、常歩で顕著な蹄尖の摺曳 (引き摺り)、つまづきが認められる。軽症例では強直性歩行が見られ、特に横木をまたぐ際に動きが誇張される。
● 背外側部脊髄の圧迫により、左右非対称な運動失調や不全麻痺を呈す場合もある。頸の疼痛、頸部筋の萎縮、頸部皮膚の感覚麻痺が認められることはまれだが、C5-C7の変形性関節症により脊髄神経が圧迫されることでこれらの徴候が発現する場合もある。

 

(2)前肢の前方短縮(いわゆる肩跛行)、頸の疼痛のみが認められる場合
脊髄は圧迫されていないため運動失調は呈さないが、関節の変形により前肢の前方短縮(いわゆる肩跛行)や頸の疼痛が認められる場合もある。頸の疼痛のみが認められる場合、運動時に頸を曲げたり頭を高く保持したりするのを嫌がることが稟告となることもある。また、頸の疼痛により地面に置かれた乾草を食べにくくなることもある。

 

頸椎圧迫性脊髄症のタイプ分類
頸椎圧迫性脊髄症(cervical vertebral compressive myelopathy:頸椎狭窄性脊髄症cervical stenotic myelopathyともいう)の一種である。頸椎圧迫性脊髄症は以下のようにタイプ1とタイプ2に分類される。

 

頸椎圧迫性脊髄症(Cervical vertebral compressive myelopathy)のタイプ分類

タイプ1 頸椎の先天性形成不全に起因し、仔馬(典型例は3-18ヶ月齢)で診断される。一般的にウォブラー症候群(wobbler  syndrome)と呼ばれる。
タイプ2 頸椎の関節突起間関節の変形性関節症に起因し、成馬(典型例は8才以上)で診断される。ウォブラー症候群は正確にはタイプ2も包含した頸椎圧迫性脊髄症を指す名称である。

上記の2分類は非常に簡潔でわかりやすいが、治療方法を選択する上で重要となる脊髄を圧迫する原因に注目すると、以下の4つに分類される。

 

頸椎圧迫性脊髄症(Cervical vertebral compressive myelopathy)の原因に注目したタイプ分類

タイプ1 若齢馬において、頸椎の先天性形成不全により脊髄が圧迫される。典型例は18ヶ月齢未満で診断されるが、2才〜4才で診断される例もある。
タイプ2 若齢馬において、関節突起間関節の変形性関節症により脊髄が圧迫される。頸椎の先天性形成不全は確認されないが、若齢であるにも関わらず関節突起間関節の変形性関節症が認められる。外傷に起因すると推測される。
タイプ3 若齢馬において、軽度の頚椎の先天性形成に起因する不全関節突起間関節の変形性関節症により脊髄が圧迫される。典型例は3-6才で診断される。
タイプ4 成馬において、関節突起間関節の変形性関節症および靭帯炎により脊髄が圧迫される。典型例は8才以上で診断される。

診断方法
X線検査
DR(digital radiography)もしくはCR(computed radiography)システムを用いれば、尾側部頸椎を除きポータブルX線照射器でも診断可能な画像を撮影することができる。C6- T1を評価するためには、高線量X線照射器が必要となる場合が多い。頚椎3個が1枚に写ったX線画像を撮影することが望ましいため、半切サイズ(35cm×43cm)のカセッテを用いることが推奨される。

 

450kgの馬におけるX線撮影条件の目安

CR DR
Kv mAs Kv mAs
後頭骨-C2 70 20 68 14
C3-C5 81 40 79 16
C5-C7 100 80 93 45
C6-T1 100 100 96 71

 

まずは正確に真横から撮影したラテラル像が必要だが、続けて斜位像(ventrolateral-dorsolateral oblique view)を撮影することで、左右の関節突起間関節を個別に評価することができる。C4-C7の斜位像は45-55°の角度をつけることが推奨されており、ポインターは頸椎の15cm下に合わせる。C3-C5のX線画像はほとんど同じだが、C6は椎体がC3-C5よりもやや短く、横突起がC7に向って張り出している。C7の椎体はC6よりも更に短い。

 

治療方法
関節突起間関節の変形性関節症により脊髄が圧迫されていた場合、NSAIDsの全身投与および休養による反応は悪い。したがって、有効性を証明した文献は乏しいものの、ステロイドの関節突起間関節内投与が推奨されている。ステロイドはトリアムシノロン(8mg/joint、最大投与量16mg)もしくはメチルプレドニゾロン(40mg/joint、最大投与量160mg)を用いる。投与後1〜4ヶ月後に臨床徴候の改善が認められ、1〜5年間持続する場合があるとされる。ただし、効果が2-3ヶ月で消失する場合もある。

 

ステロイドの関節突起間関節内投与は、超音波ガイド下で行う。microconvex probeもしくはphased array probeを用いることが望ましい。頸椎横突起の6-8cm上からやや頭側方向にプローブを向けると、少なくとも2つの関節突起間関節の辺縁が深さ約4-5cmの位置に三日月状に映し出される。そこで、12.5cm、18G spinal needleをプローブの約1cm背側からプローブと同じ角度で刺入し、関節液の吸引により針先が関節内に到達したことを確認してから、ステロイドを注入する。(超音波画像はDiagnosis and Management of Lameness in the Horse 2e p.653もしくはEquine Neck and Back Pathology 2e p.185を参照)

 

<参考資料>
1. Equine Neck and Back Pathology 2e p.95-106, 175-193
2. Diagnosis and Management of Lameness in the Horse 2e p.649-654
3. Manual of Equine Lameness p.402-403
4. Clinical Radiology of the Horse 3e p.505-535
5. 馬臨床学 p.146-147