後肢の繋靭帯起始部炎(proximal suspensory desmopathy)

繋靭帯起始部炎とは
後肢の跛行、低パフォーマンス(後肢弾発力の欠如、エンゲージメントの低下)の原因となることが多く、長期休養、ショックウェーブ療法などにより跛行を改善しにくい。前肢の急性繋靭帯起始部炎の90%が予後良好だったのに対し、後肢の急性繋靭帯起始部炎のうち予後良好なのは14%のみだったと報告されている。

飛節を後ろから見た図

 

超音波検査
● 後肢の繋靭帯は前肢の繋靭帯よりもやや薄く、筋細胞の含有量が多いために超音波検査が難しいと言われる。
● 繋靭帯起始部と深屈腱支持靭帯の癒着は、超音波検査により特定できないことが多い。

 

治療法
効果が期待できる治療法として、以下のものが挙げられている。
● ショックウェーブ療法(後肢の繋靭帯起始部炎では大きな効果が望めないとされる)
● 筋膜切開術 (fasciotomy) および靭帯切開術 (desmoplasty, ligament splitting)
筋膜内で繋靭帯が腫脹すると隣接する metatarsal nerve を圧迫するため、疼痛を感じる。したがって、超音波ガイド下で靭帯損傷部を貫くように切開すると良いとされる。術後30日間の完全休養 (術後7日間はビュート2.2mg/kg, PO, q12h投与)、その後30日間の曳運動1日 5-10 分を経て術後60日で超音波検査を行う。切開部の修復および跛行の消失が確認されたら、運動を徐々に再開する。
● 神経切断術 (deep branch of the lateral plantar nerve) および筋膜切開術

神経切断術(切神術)を施した場合、馬術競技に出場できません。競技会では、獣医検査により神経切断術を施されていることが判明したとき、日馬連の規程により、当該馬は失権または失格となります。
(FEI Veterinary Regulations 2019 Article 1048, JEF獣医規定第1015条)

● PRP(多血小板血漿)の注入
● 無細胞骨髄(acellular bone marrow)の注入
in vitroにおける繋靭帯線維芽細胞の基質タンパク質合成促進効果はPRPよりも大きかったと報告されている。
● 幹細胞の注入

 

<参考資料>
1. S. Dyson et al. (2017) Proximal suspensory desmopathy in hindlimbs: A correlative clinical, ultrasonographic, gross post mortem and histological study. Equine Vet. J. 49, 65-72
2. Diagnosis and Management of Lameness in the Horse p.499, 506-507
3. Nathaniel A. White U et al. (2008) Treatment of Suspensory Ligament Desmopathy. AAEP Proceedings 54, 502-507