薬物療法による蹄葉炎の疼痛管理<獣医師向け>

蹄葉炎の抗炎症療法に目覚ましい発展は認められず、最もよく使用される薬剤は未だに非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)である。しかし、慢性蹄葉炎では神経障害性疼痛が疼痛の一因となると報告されており、急性蹄葉炎でも侵害受容器の刺激によって脊髄神経の興奮性が高まることが疼痛の原因となり得ることが指摘されているため、疼痛を緩和するためには、NSAIDsに限らない多様なアプローチ法を検討すると良いと考えられている。蹄葉炎におけるフェニルブタゾンの鎮痛効果も、葉状層における炎症の抑制ではなく中枢性の知覚神経抑制作用による部分が大きい可能性が指摘されている。

 

経口投与薬
@ NSAIDs
フェニルブタゾン(非選択性COX阻害薬) 2.2-4.4mg/kg、1日1〜2回、経口投与
副作用の発現を抑えるため、投与開始数日後から投与量を減少することが推奨される。2.2mg/kg、1日2回であれば比較的安全であるとされる。450kgのウマにおける1日最大投与量は4g (8.8mg/kg) だが、最大投与量の連続投与はできる限り短期間にとどめるべきである。フェニルブタゾン(商品名:ビュート)はウマで多用される薬だが安全域が狭いため、多量投与をできる限り避ける必要がある。
フィロコキシブ(COX-2選択性阻害薬) 
初回投与時0.27mg/kg、初回投与24時間後から0.1mg/kg、1日1回、経口投与
副作用が発現することは稀であるとされる。推奨投与量の5倍量を92日間にわたって投与し続けても、腎組織の変化が確認されたものの副作用は観察されなかった、との報告がある。
メロキシカム(弱いCOX-2選択性阻害薬) 0.6mg/kg、1日1回、経口投与
副作用の発現は非選択性NSAIDsとあまり変わらないと言われ、連続投与は最大14日間に留めることが望ましいとされる。

フィロコキシブの鎮痛効果はフェニルブタゾンより弱い

 

COX-2選択性阻害薬であるフィロコキシブの鎮痛効果はCOX非選択性阻害薬であるフェニルブタゾンよりも弱いことがよく知られている。一般的にCOX-2は炎症組織において発現が誘導されるため誘導型 / 炎症性COXと呼ばれるが、炎症反応を誘発した齧歯類にCOX-1をやや優先的に阻害するケトプロフェンとCOX-2選択性阻害薬であるパレコキシブを投与したところ、末梢組織における抗炎症作用はパレコキシブの方が大きいにもかかわらず、ケトプロフェンの方が痛みを感知する神経(nociceptive spinal neurons)を阻害する作用が大きいことが確認された。
フェニルブタゾンの鎮痛効果がフィロコキシブより優れている理由は解明されていないが、このような研究データにより、蹄葉炎におけるフェニルブタゾンの鎮痛効果も葉状層の炎症抑制とは別の作用による部分が大きいのではないかと考えられている。

 

NSAIDsの副作用
● 消化管障害
NSAIDsによる副作用が最も表れやすいのは消化管であり、胃腸粘膜の潰瘍だけでなく右背側結腸炎が生じやすいことが知られている。低タンパク血症が右背側結腸炎の早期指標であるため、NSAIDsを長期投与する場合は定期的に血清中総タンパク質量を測定すると良い。右背側結腸が傷害されやすい原因は特定されていないが、他の部位よりも血管拡張のプロスタグランジン依存性が強いと推定されている。
COX-2選択性阻害薬の方が副作用の発現が穏やかであると考えられるものの、メロキシカムなどのCOX-2選択性阻害薬を用いても消化管障害を防ぐことはできないことが知られている。ウマでは他の動物種とは異なりCOX-2も消化管粘膜に恒常的に発現していることから、消化管粘膜保護作用の一端を担っている可能性があることが示唆されており、「COX-1は胃腸や腎臓の血流を維持するタイプで、COX-2は炎症を仲介するタイプである」という捉え方は短絡的すぎると言われている。また、COX選択性は動物種によって大きく異なるため、イヌやヒトでCOX-2選択性が確認されている薬がウマでも同様にCOX-2選択性であるとは限らない。

 

● 腎障害
プロスタグランジンの生成が抑制されることにより腎血管の拡張作用が妨げられるため、腎乳頭壊死(renal papillary necrosis)が生じやすい。著しい脱水状態にある場合や既に腎機能が低下している場合を除いて発生率は低いが、高齢馬でNSAIDsを連続投与する場合には特に腎機能低下に注意する必要がある。

 

● 肝障害
ウマでは顕著な肝障害の徴候が認められる例は報告されていないが、多くのNSAIDsは肝障害をもたらし得る。特に、肝障害作用のあるニューキノロン、ST合剤、アナボリックステロイドと同時投与する場合には注意する必要がある。また、多くのハーブや漢方薬には肝障害作用があるため、サプリメントとの併用により肝障害のリスクが上がる可能性がある。

 

● 薬物相互作用
ほとんどのNSAIDsは血漿タンパク質結合率が高く、99%にのぼる場合もある。したがって、NSAIDsを血漿タンパク質結合率が高い薬と同時投与したとき、併用した薬の血漿タンパク質との結合を置換することで血漿中半減期、分布容積を下げる。例えば、ゲンタマイシンをフェニルブタゾンと併用すると、フェニルブタゾンの薬物動態は変化しないが、ゲンタマイシンは半減期が23%減、分布容積が26%減になる。同様にサルファ剤も薬物動態が変化すると考えられる。

 

A ガバペンチン 5-20mg/kg、1日2〜3回、経口投与
● ヒトの神経障害性疼痛を緩和する効果があると報告されており、脊髄神経の興奮性を低下させるとされる。
● ウマにおいても鎮痛効果があることは証明されていないが、有効性を示唆する症例報告がある。さらに、ウマにおける経口投与の生体内利用率(bioavailability)は低い(16%)ため、多量を経口投与しなければならない。
● 副作用として軽度の鎮静作用が認められると報告されているが、疼痛の激しい蹄葉炎においてはむしろ望ましい作用であると言える。

 

B アセトアミノフェン
● フェニルブタゾン(4.4mg/kg、1日2回、静脈内投与)により十分な鎮痛効果が得られなかったポニー1頭において、アセトアミノフェンの投与(25mg/kg、経鼻投与)により跛行グレードの改善(Obel grade3から2)が認められたという報告がある。投与42時間後に跛行グレードが悪化した(Obel grade3)ため再度アセトアミノフェンの投与(20mg/kg、経口投与)を行ったところ、投与1時間後に跛行グレードの改善が認められた。
● ウマにおける経口投与の生体内利用率(bioavailability)は91%と高い。
● アセトアミノフェンの鎮痛メカニズムは解明されていない。NSAIDsと異なり抗炎症作用はほとんどなく、COXを阻害するものの、その効果は弱い。そのため、解熱鎮痛作用はCOX阻害以外のメカニズムに起因すると考えられている。解熱作用は視床下部の体温調節中枢に作用して表在毛細血管を拡張させるために生じるとされる。
● 脳内でCOX-3(疼痛の知覚に関与すると言われている)を強力に阻害すると報告されているが、COX-3の阻害と鎮痛作用を直接的に結びつけることは困難であると指摘されている。また、疼痛感覚に関与するTRP受容体に作用することが報告されている。

 

静脈内投与薬
静脈内投与は慢性蹄葉炎に対する長期投与には向かないが、疼痛が急激に悪化した場合や、疼痛を伴う処置を行う場合に有効である。

 

@ オピオイド
ヒトでは疼痛管理において極めて重要であり、小動物への使用も増加しているが、ウマにおいては副作用として興奮 (頚振り、筋痙攣)、消化管梗塞のリスク上昇が認められるためにウマでの使用は一般的ではない。それでも疼痛が極めて大きい場合には NSAIDsと併用される場合がある。

 

ブトルファノール 0.01-0.1 mg/kg、2〜3時間ごと、静脈内投与または筋肉内投与
鎮痛効果持続時間は60〜90分であり、消化管や心肺への影響が小さく、低用量では興奮も認められない。0.1mg/kgの静脈内ボーラス投与により消化管運動の抑制とともに興奮作用が認められるため、高用量を投与する場合には筋肉内投与すると良い。
ブプレノルフィン 0.003-0.005 mg/kg、静脈内投与または筋肉内投与
一定の投与量以上では効果の増大は見られず、副作用のみが増加していく。
鎮痛効果持続時間は8〜10時間であり、単剤投与では興奮作用が認められるものの、アセプロマジン(0.05mg/kg、静脈内投与)の併用により興奮作用が和らぐため、イギリスでは使用が推奨されている。
モルヒネ 0.1-0.2 mg/kg、1日2回、静脈内投与
鎮痛効果持続時間は用量依存性だが、およそ3〜4時間である。興奮作用を抑制するために以下の薬剤を併用する。
(1) アセプロマジン(0.05 mg/kg、IV)
(2) キシラジン(0.5-1.0mg/kg、IV)またはデトミジン(0.01-0.02 mg/kg、IV)

 

A リドカイン(全身投与)
1.5 mg/kgを10分以上かけて静脈内投与し、その後の投与速度は3mg/kg/hrとする。連続投与は最大24時間までとする。
● 黒クルミ抽出液の投与により敗血症性蹄葉炎を誘発した実験モデルでは抗炎症作用が認められなかったものの、全身性に炎症を抑制する効果があると報告されている。
● 脊髄の侵害受容器を阻害することで鎮痛作用を発揮すると報告されている。
● 静脈内投与することで末梢神経の痛覚過敏の進行や痛覚異常(痛覚刺激がないにもかかわらず痛覚を感じる状態)を防ぐことができると報告されており、また、すでに痛覚過敏や痛覚異常が認められる場合にも有用であることも証明されている。
● ごく稀に副作用として興奮、筋振戦が認められる。

 

B ケタミン
0.3-0.6 mg/kg/hr、静脈内投与、6時間以上
● ヒトでは、炎症反応を調節するとともに痛覚過敏の程度を和らげ、難治性の神経障害性疼痛がほとんど気にならなくなったと報告されている。
● 副作用として興奮、筋振戦が認められることが知られているが、低用量(0.4-1.2mg/kg/hr)の投与では消化管通過時間がやや長くなる以外の副作用は認められなかったと報告されている。
● 麻酔作用が生じる用量より低用量(0.6 mg/kg/hr)のケタミンと tramadolの経口投与を併用することで慢性蹄葉炎の疼痛が和らいだと報告されている。したがって、慢性蹄葉炎による中枢性痛覚過敏に対する補助的な治療法として検討する価値はあると言われる。

tramadol(10mg/kg、1日2回、静脈内投与)

 

鎮痛メカニズムは明らかになっていないが、オピオイド受容体の活性化、セロトニンやノルエピネフリンの再取り込み阻害が生じると報告されている (セロトニンは局所的には疼痛感覚を増大させる作用を持つ可能性があるが、中枢神経における侵害シグナル伝達を減少させる)。特にオピオイド受容体への作用が強く、慢性疼痛を和らげる薬として期待されており、蹄葉炎に罹患した馬4頭にtramadol(10mg/kg)を1日2回静脈内投与したところ、疼痛による踏みかえが減少したと報告されている。しかしウマでは薬物動態に関する報告はほとんど存在しないため、現時点では推奨されない。

 

C ビスホスホネート
● ヒトでは、複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome)における難治性の神経障害性疼痛がビスホスホネート製剤により緩和したとの報告がある。

 

<参考資料>
1. K. Hopster and A. W. van Eps. (2019) Review Article: Pain management for laminitis in the horse. Equine Vet. Educ. 31, 384-392
2. Equine Medicine 7 p.8-10, 58-59, 799-800
3. Equine Medicine 6 p.7-9
4. Martinez R. V. et al. (2002) Involvement of peripheral cyclooxygenase-1 and cyclooxygenase-2 in inflammatory pain. J. Pharm. Pharmacol. 54 405-412
5. Emma Jones et al. (2007) Neuropathic changes in equine laminitis pain. Pain 132, 321-331
6. Ellie West et al. (2011) Use of acetaminophen (paracetamol) as a short-term adjunctive analgesic in a laminitic pony. Vet. Anaesth. Analg. 38, 521-522
7. Jennifer L. Davis et al. (207) Gabapentin for the treatment of neuropathic pain in a pregnant horse. Am. Vet. Med. Asso. 231, 755-758
8. Equine Clinical Pharmacology p.247-266