PPIDの診断・インスリン抵抗性の判定<獣医師向け>

PPID罹患馬が蹄葉炎を発症する場合、直接的な原因はインスリン抵抗性であると考えられているため、PPIDを診断するとともに、インスリン抵抗性の有無を判定する必要がある。インスリン抵抗性はPPID罹患馬のうちおよそ70%で認められると報告されている。(PPID罹患馬では必ずしも副腎皮質の肥大が確認される訳ではない)
顕著なインスリン抵抗性が認められる場合、食餌療法とともに高インスリン血症を緩和する効果のあるメトフォルミンの投薬療法が推奨される。また、PPIDによりインスリン抵抗性が増大するため、PPID罹患馬ではPPIDの薬物療法を行うことでインスリン抵抗性の増大を抑制する必要がある。(PPIDの薬物療法・高インスリン血症を緩和するための薬物療法

 

以下のような場合に、インスリン抵抗性の評価またはPPIDの診断を行う。
● 蹄葉炎を発症した馬で、インスリン抵抗性が疑われる
● 肥満だった馬が急激に痩せる、冬毛の抜け替わりが遅れる、沈鬱状態である、などPPIDが疑われる(PPIDの症状はどのように進行する?
● 肥満、たてがみの付け根や尾根部への局所的な脂肪蓄積が目立ち、馬メタボリック症候群が疑われる(年齢・馬メタボリック症候群とPPIDとの関連性<獣医師向け>

 

インスリン抵抗性を評価したい ⇒ 絶食時グルコース濃度・インスリン濃度の測定 ⇒ 糖負荷試験                   
PPIDの臨床徴候が認められる ⇒ 休息時ACTH濃度の測定、TRH刺激試験、デキサメサゾン抑制試験

 

インスリン抵抗性の評価
(1)絶食時グルコース濃度・インスリン濃度の測定
● 約6〜8時間絶食させ、朝10時より前に採血する。前日の夕食は少量の乾草のみにして、朝食前に採血すると良い。前日の夕方に普段と同量の乾草を与えると、与えなかった場合よりもインスリン濃度が上昇することが明らかになったため、少なくとも採血前6時間は完全に絶食させるべきであるとされる。正常血糖値を70-117mg/dL程度とする参考値は食事制限を行わずに測定したものであり、興奮状態でない絶食後血糖値の正常値は100mg/dL以下、血糖値120mg/dL以上は顕著な高血糖と言われている。
● 絶食時インスリン濃度が顕著に高い値を示さない限り、絶食時の採血のみでインスリン抵抗性を評価することはできない。2020年にEquine Endocrinology Groupによって公開された診断指針は、検査機関の用いる測定方法により、異なるカットオフ値を提唱している。以下の表は2017年に出版された専門書Euine Laminitisの既述を転記したものである。
● 持続的な高血糖および血中インスリン濃度の上昇はインスリン抵抗性を強く示唆する。
● PPIDだけでなく、馬メタボリック症候群(EMS)やストレス環境もインスリン抵抗性をもたらす。
● 検査機関によって インスリンの分析法が異なるため、検査機関の提示する基準値を参考に判断する必要がある。また、常に同じ検査機関に血液サンプルを提出すると比較しやすい。検査結果の判断方法の一例を以下に示す。※ インスリン濃度の単位1μU/mL=7pmol/L

 

絶食時グルコース濃度
(mg/dL)

絶食時インスリン濃度
(μU/mL)

<100

<20
(食後6時間未満の場合は<30が目安 ※1)

インスリン抵抗性を評価できない
インスリン抵抗性を評価するために糖負荷試験を行うことが推奨される

<100 >20

正常血糖値・高インスリン血症
インスリン抵抗性を評価するために糖負荷試験を行うことが推奨される

<100 >100

正常血糖値・顕著な高インスリン血症
まずは食餌療法(蹄葉炎罹患馬がインスリン抵抗性を呈す場合の栄養管理)、食餌療法に反応しない場合は薬物療法が推奨される

>100 >20

高血糖・高インスリン血症
膵臓の機能不全による血糖値の調節不全に陥っており、代償性インスリン抵抗性から非代償性インスリン抵抗性に移行しつつある。
PPIDの検査を行う。

>120 <20

顕著な高血糖
膵臓の機能不全が進行しており、高インスリン血症は認められないものの、非代償性インスリン抵抗性を呈している。
PPIDの検査を行う。

 

(2)糖負荷試験
● インスリン抵抗性を正確に評価するために行われる。絶食時インスリン濃度が異常に高いと判断される場合にのみ、糖負荷試験をしなくてもインスリン抵抗性が高いとみなすことができると言われている。
● この試験により蹄葉炎を発症することはないとされる。
● 以前は、デキストロースを静脈内投与するCombined Glucose-Insulin Testが推奨されていた。この試験では、絶食時血液サンプルを採取した後に50%デキストロース溶液150mg/kgを静脈内投与し、その後直ちにインスリン0.1U/kgを静脈内投与した45分後、60分後に血液を採取する(15,25,35,45,60,75,90,105,120,135,150分後の血液採取が望ましい)。この試験は現在でも行われるが、糖を静脈内投与した場合、インクレチン(グルコースなどの消化産物が刺激となって小腸から分泌されるホルモンの総称で、インスリン分泌を促進する作用がある)によるインスリンの分泌促進が反映されないため、糖を経口摂取させるべきだと考えられている。
● 糖分を経口投与した一定時間後のインスリン濃度を測定する方法が提唱されているが、馬に特化した検査機関にて検査を行うことが前提となっており、日本ではふつうヒト用の検査機関で測定することになることを考慮すると、複数回採血を行い、血糖値およびインスリン濃度の推移を評価するべきだと考えられる。糖負荷試験にはKaro Light Corn Syrupを用いるOral Sugar Testと、乾草にグルコース粉末を混ぜるIn-feed Oral Glucose Tolerance Testがある。 Karo Light Corn Syrupはアメリカで一般的に市販されているバニラフレーバーのシロップで、ピーカンパイ等の材料となるようだ。日本でも、Amazonにて購入することができる。In-feed Oral Glucose Tolerance testの難点は、馬によって食べるスピードが異なるため結果の評価が難しくなることだけでなく、予想以上にグルコース粉末の嗜好性が悪いことである。普段から嗜好性の高い飼料を食べなれている繁殖牝馬では、切草にグルコース粉末を混ぜたものはもちろん、グルコース粉末をお湯に溶いたものを燕麦に混ぜて与えても食べようとしなかった。一方でKaroR Light Corn Syrupは、水あめ状で馬の嗜好性も高く、経口投与器を用いて容易に経口投与することができる。

 

Karo Light Corn Syrup Oral Sugar Test60 and/or 90分後に採血する方法や、60分後から90分後までの間に15分間隔で2回採血する方法が提唱されている。Karo Light Corn Syrupの投与量は、0.15ml/kg, 0.25ml/kg, 0.45mlの3種類があり、高用量投与した方がより感度が高いと言われている。2020年にEquine Endocrinology Groupによって公開された診断指針では、0.15ml/kgを投与した場合、インスリン濃度> 45 μU/mLをインスリン抵抗性の評価基準としている。
In-feed Oral Glucose Tolerance Test:糖負荷飼料として、粉末デキストロース0.5g/kgまたは1g/kg BWを水に溶き、1ポンド(450g)の非構造性炭水化物含有量の低い食餌とともに与える。馬が食べ終わってから2時間後に採血する。血糖値は食後60分後から120分後に最大となり、食後120分後のインスリン濃度がグルコース粉末0.5g/kgでは>68 μU/mL、グルコース粉末1g/kgでは>85 μU/mLでインスリン抵抗性と判断されるとされている。ただし、検査機関によってインスリンの分析法が異なるため、検査機関の提示する基準値を参考に判断する必要がある。

 

PPIDの診断
(1)休息時ACTH濃度の測定
● PPIDの早期診断には、休息時ACTH濃度測定とTRH刺激試験が有用である。
● PPID罹患馬では休息時の血清中ACTH濃度が顕著に高値を示すことが知られていて、敏感度は馬90.9%、ポニー81.8%であると報告されている。デキサメサゾン抑制試験の結果により診断がつかない場合や、デキサメサゾン抑制試験を避けたい場合に有用な代替法である。
● 血漿中ACTH濃度は晩夏〜秋に高値を呈す。PPIDの初期には晩夏〜秋にかけてのみACTH濃度の異常が認められるため、8月〜10月に測定することが望ましいとされる。ある報告によると、5月にACTH濃度が正常だった馬の90%以上で9月にACTH濃度が基準値以上だった。
● ストレス状態下ではACTH濃度が上昇しやすいことを考慮に入れておくべきである。
● 採血前の絶食は不要である。血液サンプルはEDTA採血管に採取し、4℃で保存して8時間以内に遠心分離する。分析するまで血漿を低温に保つことが非常に重要である。
● ACTH刺激試験は副腎の機能を評価する上では有用だが、PPID罹患馬においては視床下部-下垂体-副腎系の評価に適さないとされる。

 

休息時 血漿中ACTH濃度(pg/mL) PPIDの診断結果
>35(11-7月) PPIDと診断される
50-100(8-10月)

PPIDが疑われる
臨床徴候が認められる場合、陽性と解釈して治療を開始することが推奨される。
臨床徴候が認められない場合、3-6ヶ月後に再検査する。

>100(8-10月) PPIDと診断される

 

(2)TRH(チロシン放出ホルモン)刺激試験
● PPIDの早期診断法として有用である。
● 絶食は不要であり、安静時に採血した後、TRH 1mgを静脈内投与し、30分後に再び採血する。血液はEDTA採血管に採取し、4℃で保存して8時間以内に遠心分離する。血漿中ACTHを測定し、以下の基準を参考にする。

 

TRH投与30分後 血漿中ACTH濃度(pg/mL) PPIDの診断結果
<35 陰性
35-75(11-7月)

弱陽性

臨床徴候が認められる場合、陽性と解釈して治療を開始することが推奨される。

臨床徴候が認められない場合、3-6ヶ月後に再検査する。

>75(11-7月) 強陽性

※ 8〜10月の基準値は存在しない

 

● PPID罹患馬ではTRH(1mg,IV) 投与後15分以内にT3濃度やT4濃度の上昇が見られるだけでなく、コルチゾル濃度の顕著な上昇も見られる。コルチゾル濃度の上昇はTRH投与後90分間程度観察される。

 

(3)デキサメサゾン抑制試験 (Dexamethasone Suppression Test : DST)
● 多くの臨床獣医師はステロイド誘発性蹄葉炎の発症を危惧するが、副作用の報告はなく、PPIDの診断法として推奨されている。
● PPID罹患馬においてデキサメサゾン投与19-24時間後にコルチゾル分泌の抑制が認められないことを利用する。一般的なのはovernight DSTである。夕方5時に採血した後デキサメサゾン(40μg/kg, IM)を投与し、翌日の正午(投与19時間後)に採血する。視床下部-下垂体-副腎系が正常であれば、投与19時間後のコルチゾル濃度は1μg/dL未満である。
● 秋に試験を行った場合、偽陽性が多い(偽陽性率20-40%という報告がある)。PPIDの初期は偽陰性率が高いため、デキサメタゾン抑制試験の結果が陰性でも、臨床徴候が認められる場合は4-6ヶ月ごとに再検査する。

 

 

<参考資料>
1. Equine Internal medicine p.1267-1268, 1273-1274
2. Equine Medicine 7 p.570-576
3. Equine Applied and Clinical Nutrition p.478-480
4. Nicholas Frank et al. Recommendations for the Diagnosis and Treatment of Equine Metabolic Syndrome (EMS), Equine Endocrinology Group, 2016
5. Diagnosing Insulin Dysregulation & Equine Metabolic Syndrome, Rossdales Laboratories
6. Nicholas Frank et al. Recommendations for the Diagnosis and Treatment of Equine Metabolic Syndrome (EMS), Equine Endocrinology Group, 2020
7. Andy E. Durham et al, ECEIM consensus statement on equine metabolic syndrome, Journal of Equine Internal Medicine, (2019) DOI: 10.1111/jvim.15423