浅屈腱炎のリハビリ期にはheel-upしてはいけない?

浅屈腱炎に罹患する馬の蹄は、弱蹄踵になっていることが多い。趾軸が後方破折している場合には heel-up した方が良いように思われるが、獣医学的には、浅屈腱炎のリハビリ期には heel-up してはいけない、と言われている。この根拠となっている研究データを紹介したい。

 

heel-upすることで浅屈腱の負担が増えることを示した研究論文の紹介
<研究方法>
サラブレッド3頭の前肢浅屈腱にセンサーを埋め込み、蹄角度52°の蹄をheel-upまたはtoe-upしたときに浅屈腱の負担(正確には張力)がどのように変わるか調べた。heel wedge または toe wedge を用いて heel-up または toe-up し、蹄角度48°, 57°, 60°, 62°のときの常歩・速歩における浅屈腱の負担を調べた。
<結果>
〇 常歩における浅屈腱の負担は、蹄角度が大きく変わっても、ほとんど変わらなかった。
〇 速歩における浅屈腱の負担は、heel-upしたとき大きくなり、toe-upしたとき小さくなった。

 

このようなデータをもとに、浅屈腱炎のリハビリ過程で速歩運動をする場合にはheel-upするべきではない、と言われている。しかし、この研究で用いられた馬の蹄は蹄角度52°だ。蹄踵が潰れて著しく後方破折しているような場合も同様にheel-upしてはいけない、と言い切れるのだろうか、という疑問は残る。

 

この論文は1989年に発表されたものだが、その後、研究が進んでいない、という訳ではない。近年は動物福祉の観点から侵襲性の高い(動物を傷つける)実験は認められないため、浅屈腱・深屈腱・繋靭帯にセンサーを埋め込んで直接的に負担を計測する実験の代替法として、荷重中心点と床反力の大きさから浅屈腱・深屈腱・繋靭帯の負担を算出する方法や、超音波プローブを用いて運動中の浅屈腱・深屈腱・繋靭帯の断面積の変化を計測し、負担の大きさを推定する方法、実際の馬のCTデータを使ってコンピューターモデルを作成し、浅屈腱・深屈腱・繋靭帯の負担の大きさを算出する方法が導入されているが、いずれも実験法に疑問が残る。ただし、実験の背景を理解した上でデータを読み解いていけば参考になると思われるので、別途データをご紹介していきたい。(装蹄に関するデータ集

 

<参考資料>
Paul R. et al. (1989) Application of a Hall-effect transducer for measurement of tendon strains in horses. Am. J. Vet. Res. 50, 1089-1095