着地時の衝撃を和らげる方法?

着地時の衝撃を和らげるために、装蹄師は様々な工夫をしてきた。
着地時にかかる荷重は、馬では最大荷重に比べると非常に小さいため、着地時の衝撃を僅かに和らげたところで、骨折しにくくなるわけではない。しかし、関節に繰り返し加わる強い衝撃は、変形性関節症が進行する力学的な要因となると考えられている。また、蹄が潜り込みやすい軟らかい馬場(all-weather waxed track)の方が砂馬場と比べて速歩 (10m/s) における浅屈腱の負担が小さくなることが確かめられている。
そこで、着地時の衝撃を測定した興味深いデータを紹介したい。

 

革パットやプラスチックパットは、着地時の衝撃を少し和らげる
革パットやプラスチックパットを鉄製蹄鉄と蹄の間に挟み、釘付け装蹄した場合、鉄製蹄鉄を釘付け装蹄した場合よりも着地時の衝撃が小さくなると報告されている。この結果は、馬2頭の蹄の再大横径部にプラスチックストラップを用いて加速度計を固定し、アスファルト上を速歩 (4m/s) させることで得られたた。着地時の衝撃は加速度の合計と定義されている。海外の講習会で、革パットはかえって着地時の衝撃を増やす、と聞いたことがあるが、引用されていた文献をよく読んでみると、革パットを入れることで着地後の振動数は多くなったが、着地直後の衝撃の大きさは小さくなっていた。

 

プラスチック製蹄鉄を装着すると、着地時の衝撃が小さくなる
プラスチック製蹄鉄は、釘付け装蹄しても接着装蹄しても、鉄製蹄鉄を装着した場合と比べて衝撃が小さくなる。

 

プラスチック製蹄鉄にEqui-Pack Soft を充填すると、着地時の衝撃が小さくなる
プラスチック製蹄鉄を接着装蹄し、さらに Equi-Pack Soft を充填すると、プラスチック製蹄鉄を接着装蹄した場合と比べて衝撃は小さくなると報告されている。

 

アルミ製蹄鉄を装着すると、着地時の衝撃が大きくなる
鉄製蹄鉄よりもアルミ製蹄鉄の方が衝撃を吸収すると考えられてきたものの、実際には、アルミ製蹄鉄装着時の方が着地時の衝撃が大きくなることが明らかとなった。装蹄師は、釘や蹄鉄のサイズが同じでも、アルミ製蹄鉄の方が鉄製蹄鉄よりも釘が緩みやすいことを実感している。

 

エッグバー蹄鉄を装着すると蹄踵部にかかる着地時の衝撃が小さくなる
エッグバー蹄鉄を装着すると着地時の衝撃が分散されやすくなる。特に蹄踵部にかかる衝撃が小さくなると報告されている。

 

趾軸が前方破折している時、着地時の衝撃が大きくなる
toe wedge を入れた場合、着地時の衝撃は heel wedge を入れた場合の3倍になったと報告されている。繋が起立するため、衝撃力が吸収されにくくなると考察されている。

 

前肢の方が着地時の衝撃が大きい
前肢が着地する時には垂直方向の力がかかるが、後肢が到着するときには水平方向の力がかかる。したがって、前肢はバウンスするのに対し、後肢はスライドする。特に後肢がスライドする時間は馬場によって影響されやすいことがわかっており、速歩における後肢のスライド時間はダート16ms、アスファルト21msだった。刺激に反応して筋肉が収縮するまでにかかる時間はヒトでも馬でもおよそ30ms(ms=1/1000s)である。

 

着地時の衝撃は蹄鉄よりも馬場の種類に大きく影響される
着地時の衝撃は、蹄鉄の種類よりも馬場の種類に大きく影響される。ちなみに、ダートの上層が5cm以上あれば着地時の衝撃は40-60%減少する。

 

<参考資料>
1. Benoit P et al. (1993) Comparison of the damping effect of different shoeing by the measurement of hoof acceleration. Acta. Anat. (Basel)146, 109-13
2. Equine Locomotion p.138, 154-155, 163,167
3. American Farriers Journal April 1978 p.72-73
4. M.A.Willemen et al. (1999) In vitro transmission and attenuation of impact vibrations in the distal forelimb. Equine Vet. J. Suppl. 30,245-248
5. N. Crevier-Denoix et al. (2009) Influence of track surface on the equine superficial digital flexor tendon loading in two horses at high speed trot. Equine Vet. J. 41, 257-261