蹄が滑りにくくなると浅屈腱・繋靭帯の負担が大きくなる?

前肢では、着地直後に蹄が前に滑る馬場の方が、浅屈腱の負担が小さいことが確かめられている。また、蹄が前に滑るとともに蹄踵が沈み込む馬場の方が球節の沈下量が小さくなることから、グリップの強い馬場や硬い馬場では繋靭帯の負担が大きくなることを示したデータがある。アスファルト、fiber/sand mixed track、砂馬場における速歩で前肢球節の最大沈下量を比較すると、球節の最大沈下量は蹄が前に滑るとともに蹄踵が沈み込む砂馬場で最小となり、蹄踵が沈み込まないアスファルトで最大となる。 fiber/sand mixed track とは、近年海外で人気が高く、2020年の東京オリンピックでも使用される馬場で、一般的に「白砂」と呼ばれる。細かいシリカにフェルトを混ぜた馬場であり、メンテナンスが簡単で、使用を続けても固まりにくいという特性が人気の最大の理由らしいが、グリップが強いために推進力を発揮しやすく、ライダーがパフォーマンスの向上を実感しやすいという利点もある。繋靭帯の負担は球節の最大沈下量が大きくなるほど大きくなるため、グリップの強い馬場や硬い馬場で運動したり、クランポンを装着したりすることで、繋靭帯や浅屈腱の負担が大きくなると言える。
一方で、後肢では、連尾部分の幅が広い蹄鉄の装着により着地直後に蹄が著しく前に滑ることで、浅屈腱や繋靭帯の負担が大きくなることを示したデータがある。後肢では、着地直後に蹄が著しく前に滑ることで球節が沈下しやすいためだ。ただし、後肢の滑走時間はもともと前肢の2倍以上であり、滑走を無理に抑制してしまうと、やはりあしもとに負担がかかる。

 

着地直後の後肢(浅屈腱深屈腱

 

前肢では、浅屈腱および深屈腱の近位付着部(肘のあたり)から球節までの間に飛節のように曲がる関節がない。したがって、浅屈腱の支持靭帯と深屈腱の支持靭帯が浅屈腱や深屈腱が伸びすぎるのを防ぐ役割を担っている。後肢にも深屈腱の支持靭帯は存在するが、非常に細く、ほとんど機能していないと考えられる。

 

最大荷重時の前肢(浅屈腱深屈腱浅屈腱の支持靭帯深屈腱の支持靭帯

 

前肢では、浅屈腱の支持靭帯や深屈腱の支持靭帯を傷めることがある。また、浅屈腱の支持靭帯が橈骨に付着する部分が過度に引っ張られることで骨増生し、痛くなることがある。このように、靭帯や腱の骨への付着部が過度に引っ張られることが刺激となり骨増生するものを、筋腱付着部症(enthesopathy)という。

 

浅屈腱支持靭帯の筋腱付着部症は獣医学的に対処するしかないが、深屈腱の支持靭帯は特に蹄角度の影響を受けるため、深屈腱支持靭帯炎のリハビリ期には heel-up すると良い。ただし、過度にheel-upすれば、深屈腱や深屈腱の支持靭帯の負担が小さくなる分、浅屈腱や繋靭帯の負担が大きくなる可能性が高い、ということを念頭に置く必要がある。

 

<参考資料>
1. Equine Locomotion p.105, 130
2. H.Chateau et al. (2009) Effects of a synthetic all-weather waxed track versus a crushed sand track on 3D acceleration of the front hoof in three horses trotting at high speed. Equine Vet. J. 41, 247-251
3. N. Crevier-Denoix et al. (2009) Influence of track surface on the equine superficial digital flexor tendon loading in two horses at high speed trot. Equine Vet. J. 41, 257-261
4. Sebastien Caure et al. (2018) The influence of Different Hind Shoes and Bare Feet on Horse Kinematics at a Walk and Trot on a Soft Surface. J. Equine Vet. Sci. 70, 76-83
5. C.J.W.Scheffer et al. (2001) Effects of ‘Navicular’ shoeing on equine distal forelimb kinematics on different track surface. Vet. Quart. 23, 191-195