関節炎用のサプリメント

関節炎に効果があるとしてサプリメントに添加されている物質は複数存在するが、どれも科学的根拠は曖昧である。

 

グルコサミン
● ヒアルロン酸などグリコサミノグリカンの構成成分であるアミノ糖で、生体内でグルコースにアミノ基を付加することで合成される (ヒアルロン酸はグルコサミンのアミノ基がアセチル化したアセチルグルコサミンを構成成分とする)。
● 軟骨を構成するグリコサミノグリカンの材料を多量に供給することで軟骨の代謝を促進するとともに、関節軟骨の炎症を抑制する可能性があると考えられてきた。in vitro において馬の軟骨細胞にIL-1βを添加し、グルコサミン(0.25、2.5、25mg/mL)存在下で培養液中のPGE2、プロテオグリカンなどの濃度に差が生じるか調べたところ、グルコサミン25mg/mLを添加したときにPGE2合成量の減少、軟骨中プロテオグリカン分解量の減少が確認された。ただし、抗炎症薬とは異なり、COXを直接的に阻害する作用は認められなかった。
● in vitroにおいて軟骨細胞の代謝に影響が認められる濃度には研究データによって大きな幅があり、10μg/mL - 25mg/mLである。経口投与の生体内利用率(bioavailability)は2.5% - 6.1%と低いことから、グルコサミンを経口投与しても関節液まで拡散しないと考えられる。実際に、サプリメント推奨投与量の5-10倍を経口投与したときにはじめて、血清濃度が10.6μg/mLに達したと報告されている。また、放射線同位元素を標識したグルコサミンを経口投与した後の関節液中放射線同位元素標識グルコサミン濃度は血清中濃度の1/10未満だったと報告されている。
● 馬における経口投与の有用性を証明したデータはほとんど存在しない。

 

コンドロイチン硫酸
● 関節軟骨中グリコサミノグリカン (※1)の80%を構成する長鎖の多糖であり、保水作用を担う構成成分として重要である。また、骨、靭帯、腱の細胞外基質としても重要である。
● in vitroにおいて、ヒト白血球の走化性、食作用、リソソームの放出を阻害することで炎症反応を抑制するとともに、フリーラジカルから細胞膜を保護する作用が確認されている。
● ヒトの生体内利用率(bioavailability)は12%であるにも関わらず、コンドロイチン硫酸0.8gを1日1回、10日にわたって経口摂取した変形性関節症の患者12人では、摂取しなかった患者12人よりも関節液中のヒアルロン酸濃度が高値だったと報告されている。
● ウマでは、in vitroにおいて軟骨細胞の代謝に影響が認められる濃度、経口投与の生体内利用率(bioavailability)についての報告は存在しない。in vitro において軟骨細胞にIL-1を添加し、@グルコサミン(12.5、25、125、250μg/mL)、Aコンドロイチン硫酸(12.5、25、125、250μg/mL)、Bグルコサミン+コンドロイチン硫酸(それぞれ12.5、25、125、250μg/mLを1:1で混合)の存在下で培養液中のグリコサミノグリカン濃度に差が生じるか調べたところ、グルコサミン250μg/mLとコンドロイチン硫酸250μg/mLを添加した場合にのみ軟骨中グリコサミノグリカン分解量の減少が認められた。つまり、少なくともコンドロイチン硫酸250μg/mLでは、軟骨培養細胞中グリコサミノグリカンの分解を抑制する効果は認められない。
● 消化管粘膜にはグリコサミノグリカン (※1)を分解する酵素が存在するので、分解されてから吸収されると考えられる。したがって、投与されるコンドロイチン硫酸の分子量によって吸収率および生体内利用率(bioavailability)が変化する。サプリメントにはサメや牛の軟骨から抽出したコンドロイチン硫酸が配合されていることが多いが、由来する動物種や組織によって分子量や薬物動態が異なるため、同量のコンドロイチン硫酸が配合されていても、サプリメントによって効果が異なると推測される。

(※1) グリコサミノグリカン(glycosaminoglycan:GAG)とは長鎖で枝分かれのないムコ多糖(アミノ基を含む多糖)であり、結合組織を中心にあらゆる組織に普遍的に存在する。ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、グルコサミンはグリコサミノグリカンの一種である。多くのグリコサミノグリカンは硫酸基が付加した繰り返し構造であり、コアタンパク質に付加したプロテオグリカンとして存在するが、ヒアルロン酸は硫酸基をもたず、タンパク質にも結合していない。グルコサミンはヒアルロン酸などのグリコサミノグリカンの成分である。コンドロイチン硫酸はヒアルロン酸とともに軟骨を構成する成分であり、保水作用を担う。

 

ヒアルロン酸
● 経口投与の生体内利用率(bioavailability)は不明である。
● 飛節に骨軟骨症を認める馬6頭にヒアルロン酸250mgを1日1回、60日にわたって経口投与し、関節の腫脹、関節液中のPGE2、NO、ヒアルロン酸の濃度を調べたところ、非投与馬5頭と比べて有意差は認められなかいものの、関節の腫脹がやや改善するとともに、関節液中のPGE2、NO濃度の減少、ヒアルロン酸濃度の上昇が認められたと報告されている。
● 飛節の骨軟骨症に対する外科手術を行った1歳馬24頭にヒアルロン酸100mgを1日1回、術後30日にわたって経口投与したところ、関節の腫脹が軽減したと報告されている(blinded examinerによるスコアリング)。
● 馬における経口投与の有用性を明確に証明したデータは存在しない。

 

MSM(methylsulfonylmethane)
● 関節炎に対するサプリメントによく配合されている有機硫黄化合物で、臭いや味はない。果物、アルファルファ、トウモロコシに微量含まれる。
● 薬効は証明されていないが、抗酸化作用や関節炎治癒促進効果があると言われる。ヒトでも、抗炎症作用、抗酸化作用があるとして栄養補助食品として用いられてきた。コリンエステラーゼを阻害することで筋痙攣を抑制するため、筋肉痛にも効果があると言われる。
● 馬における経口投与の有用性を明確に証明したデータは存在しない。

 

アボカド・大豆不鹸化物(Avocado and Soybean Unsaponified)
● アボカドと大豆から油を抽出し、不鹸化物(加水分解後に残る、鹸化されない成分)を集めたもの。馬における経口投与の有用性を明確に証明したデータは存在しないものの、経口投与される物質の中では有用性が認められる可能性が最も高い。
● アボカド抽出液:大豆抽出液=1:2(総投与量は不明)を糖蜜6mLと混合したものを1日1回、70日間にわたって関節症モデル(手根中央関節の剥離骨折モデル)の馬8頭に経口投与したところ、跛行を改善させる効果は認められなかったものの、関節軟骨のびらん、滑膜の状態、グリコサミノグリカンの合成量に改善が認められた。

 

多価不飽和脂肪酸(Polyunsaturated Fatty Acids)
● 魚油に豊富に含まれ、炎症性サイトカイン、アラキドン酸由来エイコサノイド(プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンなど)の合成量を減少させると考えられている。特にオメガ-3多価不飽和脂肪酸は抗炎症効果をもつエイコサペンタエン酸(EPA)のもととなるα-リノレン酸(必須脂肪酸)を含む。
● オメガ-3多価不飽和脂肪酸38gを健康馬14頭に1日1回、90日にわたって経口投与し、関節液中のPGE2濃度を測定したところ、非投与馬と比べて有意差は認められないものの、PGE2濃度が低下する傾向が認められた。
● 馬における経口投与の有用性を明確に証明したデータは存在しない。

 

セチルミリストレート(Cetyl Myristoleate)
● 脂肪酸の一種であり、ロイコトリエンを合成する5-リポオキシゲナーゼ経路を阻害すると考えられている。
● 関節炎と診断された馬39頭の比較臨床試験ににおいて、セシルミリストレート投与群では跛行スコア(AAEP)、屈曲痛の有意な改善が認められた。

 

ミドリイガイエキス(Extract of Green-lipped Mussel, Perna canaliculus)
● 馬の関節炎に対するサプリメントとして古くから使用されている物質の一つでオメガ-3系脂肪酸を多く含む。
● in vitroにおいてTNF-α、COX-2、PGE2など多種炎症性物質を阻害する作用があることが示されている。
● 球節の関節症罹患馬19頭にミドリイガイエキス25mg/kgを1日1回、56日にわたって経口投与したところ、非投与馬と比べて有意に跛行、屈曲痛、関節の腫脹・熱感が改善したと報告されている。

 

<参考資料>
1. Lameness in Horses 6e p.975-985
2. Joint Disease in the Horse p.270-280
3. Equine Medicine 7 p.803
4. J. I. Fenton et al. (2002) Effect of glucosamine on interleukin-1-conditioned articular cartilage. Equine Vet. J. 34, 219-223
5. Ronca E et al. (1998) Anti-inflammatory activity of chondroitin sulfate. Osteoarthritis Cartilage Suppl. 6, 14-21
6. J. E. Dechant et al. (2005) Effects of glucosamine hydrochloride and chondroitis sulphate, alone and in combination, on normal and interleukin-1 conditioned equine articular cartilage explant metabolism. Equine Vet. J. 37, 227-231
7. Kawcak C. E. et al. (2007) Evaluation of avocado and soybean unsaponifiable extracts for treatment of horses with experimentally induced osteoarthritis using an equine model. Am. J. Vet. Res. 68, 598-604
8. Trinette Ross Jones et al. (2014) Effects of Omega-3 long chain polyunsaturated fatty acid supplementation on equine synovial fluid fatty acid composition and prostaglandin E2. J. Equine Vet. Sci. 34,779-783