ドクター・レドン講習会:蹄の外観から蹄骨の位置を推測するために

2018年7月30日〜8月3日にわたって開催されたRic F. Redden主催講習会の講義内容の一部をご紹介します。

 

レドン先生のコメント
装蹄師はレントゲン画像が無くても蹄の外観から蹄骨の位置を推測する目を鍛える必要がある。そのため、レントゲン画像を確認できる機会があれば、外見から蹄骨の位置を推測した後に、レントゲン画像を確認すると良い。また、様々な蹄の外貌を側面、前面、後面、底面からスケッチすることで、蹄を見るときに注目すべきポイントが分かるだろう。例えば、蹄壁のどの部分からゆがんでいるか、挙踵蹄の蹄球がどのように押し上げられているかなど、見落としてはいけない観察項目はたくさんある。人は意識して観察しないときは、その対象物の特性には気付かない。そのため、蹄の異常を的確に早く察知するためには、意識的な観察眼が不可欠である。

 

蹄の外観から蹄骨の位置を推測する方法

あくまでも目安としてのレベルで「蹄の外観から蹄骨の位置を推測する方法」が、かなり具体的に紹介されていました。その方法は必ずしも正確だとは言い切れませんが、レドン先生は、普段レントゲン画像を自由に活用できない装蹄師のためを思って、あえてその方法を紹介していました。参考のため、その概要を紹介します。

● 「レントゲンの側望像において蹄骨背縁と蹄骨下縁がつくる角度(蹄骨尖角度)はおよそ50度である」と説明されていました。しかし、近年アメリカでは、この蹄骨尖角度の個体差が非常に大きいと報告されており、このことが馬によって適切な蹄角度が異なる理由の一つであると考えられるようになってきました。実際に、様々な馬の蹄レントゲン側望像 (ラテラル像) も見てみても、蹄骨尖角度の個体差は顕著です (次のレントゲン画像においても、蹄骨尖角度は45°です)。
 蹄骨尖角度

 

● 「蹄叉尖の蹄底結合部(a)と蹄叉中心溝の皮膚接合部(b)を結んだ直線は蹄骨下縁に平行である」との説明もありました。しかし、蹄叉中心溝の皮膚接合部(b)は目安として大変不明確なので、指標とするには難点があります。また、蹄骨尖角度を50°と断定すると、蹄角度が50°より小さい場合には、必ずPAマイナスとなるはずであり、この指標は必ずしも当てはまらないと考えられます。レドン先生の提唱する考え方は、蹄角度が50°より大きい蹄では妥当性があるかもしれませんが、サラブレッドのように蹄角度が50°を下回るような蹄には、普遍的に適用するのは難しいと思われます。
 
蹄叉尖の蹄底結合部(a)と蹄叉中心溝の皮膚接合部(b)

 

 
蹄叉中心溝の皮膚接合部(b)に相当する領域

 

● レドン先生は「内外の蹄叉側溝の後端を結んだ直線を指標として蹄骨の内外の傾きを推測できる」と説明されていました。しかし、これもあくまでも目安であり、少なくとも内外一側の挙踵においては指標として不確実であることから、やはり確実性を期するならレントゲン撮影を行う必要があると思われます。
 
内外の蹄叉側溝の後端を結んだ直線

 

レントゲン画像を随時確認できない装蹄師は、蹄の外見から蹄骨の位置や傾きを把握するために日頃から工夫しています。装蹄方針に迷う場合すべてで蹄レントゲン画像を確認することはできないため、欧米の装蹄師向けの雑誌には、蹄骨の位置を推測するアイディアが数多く提示されています。どのアイディアもすべての蹄に適用できる指標ではないと感じるものの、考察を深めるには有用だと思われます。
レドン先生の講演内容も、より良い装蹄法を追求する中で考察を深め、装蹄師どうし、および装蹄師と獣医師が議論する一助となれば幸いです。