蹄骨炎とは
炎症によって蹄骨の脱灰(demineralization)が進行する疾患。脱灰により骨密度が低下するため、レントゲン画像においてX線透過性の亢進が認められる。蹄骨には骨髄を容れる髄腔が存在しないので、骨髄炎は生じない。前肢に多く認められる。

なぜ炎症によって脱灰が進行するの?

 

骨は、常に破骨細胞が古くなった骨を破壊して吸収し、一方で骨芽細胞が新たな骨を形成することで一定の形が保たれている。このように、骨は絶えずリモデリング(再構築)されている。破骨細胞の前駆細胞(骨髄単球)を炎症性サイトカイン(炎症反応を仲介する物質)とともに培養すると破骨細胞の特徴を呈する細胞に分化することから、慢性的な炎症によって破骨細胞が誘導される(増殖する)と考えられる。
ちなみに、すべての骨は常にリモデリングされており、形が少しずつ変化している。これは蹄骨も例外ではなく、成馬では蹄の変形に合わせて蹄骨も左右非対称な形に変化している。

 

原因
感染に起因する慢性炎症が原因である場合と、感染に起因しない慢性炎症が原因である場合がある。感染性の蹄骨炎では、抗菌薬の投与が必要である。
● 感染性:外傷性または血行性に生じる。
● 非感染性:着地時に蹄に加わる衝撃に起因する場合が多い。したがって、硬い馬場で運動している馬に生じやすい。

 

跛行との関連性
● 硬地上で跛行が悪化する。また、装削蹄後に跛行が悪化する場合も多い。
● 前肢に生じた場合、歩様にイレギュラーが目立ち、つまづくことが多くなると言われる。

 

診断法
● 以下の蹄レントゲン検査を行う。
@ 60°スカイビュー像(dorsopalmar view)
A 背外側 - 掌内側斜位像(後肢では背外側 ? 底内側斜位像)
B 背内側 - 掌外側斜位像(後肢では背内側 ? 底外側斜位像)
● 蹄骨の脱灰により、蹄骨辺縁が不整となる。しかし、一度脱灰すると辺縁の滑らかな蹄骨に戻ることはないので、高齢の乗馬では多かれ少なかれ蹄骨辺縁が不整である。したがって、蹄骨辺縁が不整であるからといって、跛行の原因であるとは断定できない。また、神経ブロックにより蹄が痛いことは特定できるが、痛みのある部位を特定することはできない。したがって、蹄骨骨折、ナビキュラー症候群、蹄関節側副靭帯炎などと鑑別する必要があるため、軟地上と硬地上で歩様を比較する、円運動させる、1分程度ウェッジ状のブロックを踏ませることで蹄内側・外側・蹄尖部・蹄踵部を上げ、その直後の速歩を観察する、などにより痛みのある場所を推定する。
● 感染性蹄骨炎では、局所性の骨溶解(osteolysis)が認められる。ただし、蹄骨尖端の半円形の窪みは異常所見ではない。跛行を呈していない馬でもよく認められる。

 

治療法
● 非感染性蹄骨炎では、抗炎症剤の投与と休養が推奨される。経過が短く、運動環境が改善された場合、予後が良い。経過が長い場合、また、運動環境の改善が難しい場合、エクイパック・ソフトなどの充填剤を充填すると良いと考えられる (着地時の衝撃を和らげる方法)。
● 感染性蹄骨炎では、感染部のデブリドマンが推奨される。処置後は患部に希釈ポビドンヨードを浸み込ませたガーゼをあててバンデージを巻く。患部の浸出液が減少するまで頻繁にバンデージを取り換えることで再感染の抑制を図る。長期にわたる抗菌薬の全身投与は腸内細菌を攪乱するリスクが高いので、局所灌流(regional limb perfusion)を行うと良い。

 

<参考資料>
1. Lameness in Horses 6e p.509-511
2. S. Dyson (2011) Review Article: Nonseptic osteitis of the distal phalanx and its palmar processes. Equine Vet. Educ. 23, 472-485
3. 日本臨床免疫学会会誌 Vol.40 No.5 p.367-376