ドクター・レドン講習会:蹄レントゲン画像の評価方法

2018年7月30日〜8月3日にわたって開催されたRic F. Redden主催講習会の講義内容の一部をご紹介します。

 

レドン先生のコメント
「理想的な蹄の形」は人によって違う。また、馬の肢勢や歩様には個体差があるため、その馬に適した蹄の形は異なる。人の目、耳、鼻の形や位置が違うように、蹄にも個性があることをまず始めに理解しなければならない。様々な蹄の計測数値も同様だ。例えば、蹄鞘内部に収まっているときの蹄骨下縁の傾斜角度(palmar angle :PA)の正常値をよく聞かれるが、品種によって、また個体によって異なる。したがって、それらすべてのパラメーターの数値は経過観察の指標として用いるか、あるいはすべての計測数値を総合して各パラメーターの妥当性を判断するべきだ。ただし、PA が蹄の特徴を把握する鍵となる重要なパラメーターであることは間違いない。

 

蹄レントゲン画像の評価方法
● 側望のレントゲン画像(外内側像、ラテラル像)では次の項目を計測する。

 

@ CE:蹄冠−蹄骨伸筋突起間距離
A HL zone:蹄壁背縁−蹄骨背縁間距離
B SD:蹄底組織の厚み(蹄骨尖から蹄底角質表面までの距離:蹄底真皮および蹄底角質の厚み)
C PA:蹄骨下縁の傾斜角度
蹄骨下縁の後端が水平線よりも下がっている場合、PAがマイナスである(PAマイナス)と表現する。
D TSA:トウ骨(遠位種指骨)の傾斜角度(X線の光軸中心:ポインターをトウ骨屈筋面に合わせて撮影したレントゲン画像で測定する)
CE=Coronary band extensor process zone, HL zone=Horn Lamellar zone , SD=Sole Depth, PA=palmar Angle, TSA=Tendon Surface Angle

レントゲン画像において長さを計測するためには、レントゲン画像に長さのわかるものを写り込ませてレントゲン画像上の長さを補正する必要がある。

 

● サラブレッドにおける HL zone の正常値は15-16mm程度だが、他品種を含めると正常値は 9-25mmの間にあり、個体差が大きい。CEの平均値は、5-15mmだ。(サラブレッドのCEは10mm以下だと言われている)いずれも1回だけのレントゲン撮影では異常を確定できない場合が多いため、継続してレントゲン撮影を行い、経過を総合的に評価する必要がある。※ CEの長さは荷重の偏りによる誤差が大きいことが報告されている

 

● 蹄鉄を装着する蹄では、厚さ約10mmの真皮層を保護するために少なくとも厚さ5-10mmの蹄底角質が必要である。この数値は多数のベノグラム(血管造影)を積み重ねた結果、導き出されたものだ。蹄底組織(蹄底真皮および蹄底角質)の厚みは削蹄後で15-20mm程度であることが望ましいが、薄い場合は厚さが10-12mmしかないこともある。この数値は馬体の大きさ・蹄の大きさによって変わるが、HL zoneと同等以上であることが望ましい。

 

● 蹄踵が潰れて PA がマイナスになっているとき代償的に繋が立つが、このときTSAは小さくなる。トウ骨はダメージが生じやすい部位なので、装蹄前後でTSAの変化を測定し、蹄内部構造のアライメント(調和)を評価する。

 

● 側望のレントゲン画像を撮影するとき、蹄壁背側にペースト状の造影剤(マーカー)を塗るべきである。釘のように固いガイドラインを蹄壁背側に貼り付けた場合は、蹄壁の細かな凹凸がわからない。デジタルレントゲン画像で蹄壁背側が明瞭に観察できる場合でも、マーカーは必須である。これは、蹄冠−蹄骨伸筋突起間距離を測定するために蹄冠の位置を厳密に特定する必要があるためだ。(米国ではデジタルレントゲン画像を撮影する際にはマーカーを塗布しないことが多いが、レントゲン画像上で蹄冠の位置を厳密に特定するためには、やはりマーカーを塗布すべきだとレドン先生は述べていた)

 

● 常に見たいものと同じ高さから観察することを心掛ける。画家が描く馬の絵では、蹄に違和感を覚えることが多い。これは蹄踵角度を大きく描きすぎることが原因だが、画家の視点が高い位置にあるためにこのような蹄が描かれる。レントゲン撮影においても同様のことが起きることを理解する必要がある。PAを測定するときには蹄骨下面にX線の光軸中心(ポインター)を合わせ、トウ骨の傾斜角度を測定するときにはトウ骨屈筋面の位置にポインターを合わせなければ測定誤差が大きくなり、得られる情報は不確かなものになる。

 

● 蹄軟部組織の柔軟性は予想以上に大きいので、蹄への荷重に偏りがある場合にはPAを始めとするあらゆるパラメーターが変化してしまう。特に、肢の踏み位置によって関節腔の見え方は大きく変わる。例えば、広く踏ませれば内側の関節腔が狭くなってしまうので、管骨が地面に対して垂直になるように肢を踏ませて、レントゲン画像を撮影すべきである。