蹄バランスを判定するための蹄レントゲン画像の活用について−獣医師の皆様へ−

蹄レントゲン画像は、レントゲン照射角度や肢の踏み位置、荷重の偏りなどによる誤差が非常に大きいため、まずは獣医師が誤差の少ないレントゲン画像の撮影に努めることが不可欠です。
蹄レントゲン画像を評価するためには、レントゲン画像だけに頼らず、常に蹄の観察結果と合わせて総合的に判断する必要があります。

 

日本式・装蹄方針の立て方
参考までに、日本式・装蹄方針の立て方の原則をここにご紹介しておきます。
日本の装蹄師は、原則的に趾軸のみではなく主に以下の3種の検査を行い、結果を複合的に判断して装蹄方針を立てています。

 

1.歩様検査
● 先着部位…蹄のどの部分が先に着地するか
● 歩様…肢を内側や外側に大きく振っているか
2.駐立検査
● 趾軸検査…駐立時に球節以下の肢端がその馬にとって最も無理のない方向を向いているか
● 蹄の坐りの検査…球節の沈下が安定しているか
3.挙肢検査
肢を挙げて腕節・飛節以下の肢の軸を観察したとき、その馬にとって最も無理のない方向に向いているか

 

レントゲン画像で判断される「蹄のバランス」は、あくまでも駐立検査を代行しているにすぎません。確かにレントゲン検査による駐立検査は蹄冠を指標とするよりはずっと正確です。したがって、装蹄師が装蹄方針を立てる上で、レントゲン画像を一つの判断材料として活用することはできるでしょう。しかし、装蹄師は今までの長いキャリアの中で、レントゲン画像を一つの判断材料として装蹄方針を築き上げてきた訳ではありません。

 

実際に装蹄すべく馬を観察してみると、何を根拠に負面を作ればよいのか途方に暮れます。例えば、前肢を大きく広げて立っている馬がいて、歩くときに肢を外側に大きく振っていたとします。馬が立っているところを前から見ると、前肢の蹄冠は両方とも外側に向って傾いていました。左前肢を持ち上げてみると、球節以下が曲がっていました。さて、どのように負面をつくればよいのでしょうか。

 


球節以下が管骨から直線的に繋がっている肢(a)と球節以下が管骨から直線的に繋がっていない肢(b)

 

これに加えて、蹄や肢元にトラブルを抱えているか、交突や追突の跡があるか、出場する競技は何か、落鉄しやすい馬かどうか、釘を打ち込みやすい良い蹄質かどうかなど、考慮すべき事項は数えきれません。装蹄師は弟子として数多くの装蹄を積み重ねる中でどの検査の結論を優先すべきか判断する目を養い、独自の装蹄方針を築き上げています。

 

加えて強調しておきたいのは、蹄のレントゲン画像は誤差が極めて大きいということです。馬の立たせ方やレントゲンの照射方向がわずかに変わるだけで、予想以上に蹄レントゲン画像の印象は変わってしまいます。そして、レントゲン画像に写っているのは「馬の自然な駐立肢勢における骨のバランス」ではありません。

 

そうは言っても、蹄レントゲン画像を確認する必要がある度に、装蹄師がレントゲン画像と蹄の観察結果の関連性を探求していけば、レントゲン画像なしに装蹄方針を立てる際の判断材料が増えるでしょう。しかし、装蹄師がレントゲン画像を一つの判断材料とした装蹄方針を築き上げるためには時間がかかります。レントゲン画像を装蹄師の判断材料として定着させるためには、まず一元的な見方で装蹄の良し悪しを判断しないようにすることから始めなければなりません。