ステロイドの関節内投与<獣医師向け>

推奨投与量
〇 トリアムシノロン(triamcinolone acetonide)6-12mg/joint, for high-motion joints(中期間作用)
〇 メチルプレドニゾロン(methylprednisolone acetate)40-100mg/joint, for low-motion joints(長期間作用)
〇 ベタメタゾン(betamethasone esters)3-18mg/joint(中〜長期間作用)

 

● 数十年に渡って使用され続けているが、投与量や投与回数は経験的に決められている部分が多い。高容量の投与または痛みのない関節への投与により軟骨細胞の退行性変化が確認されることから、コルチコステロイド関節内投与の有効性については長年議論が続いてきたが、現在では、過剰量の投与を避ければ有用性は極めて高く、疼痛を長期間にわたって緩和する効果が最も大きい治療法である、という認識が一般的であり、その有用性は多数の研究データによって示されている。

 

● 連続投与は2週間〜1ヶ月の間隔をあけ、最大3回程度までとされる。反応が認められた場合、6-12ヶ月ごとに再投与する。2-3ヶ月より短い間隔の再投与が必要となる場合、ステロイド関節内投与以外の治療法を検討すべきである。

 

● コルチコステロイドを関節内に投与することで炎症細胞の蓄積が抑制されるとともに、プロスタグランジンを合成するアラキドン酸カスケードが阻害される。疼痛の緩和はプロスタグランジンの生成量が大幅に減少することに起因する。また、低用量の投与でも、軟骨の変性をもたらす最も重要な因子である IL-1 を阻害することが知られている。

 

● 手根中央関節の骨軟骨症モデル(外科的に骨軟骨片を切除)にメチルプレドニゾロン100mgを関節内投与すると、関節液中のPGE2濃度は低下したが、軟骨のびらんが進行し、跛行スコアの顕著な改善も認められなかったと報告されている。低用量メチルプレドニゾロンの有効性を認めるとする臨床獣医師が存在するものの、in vivoでは証明されていない。また、骨癒合を促進させると推測されるために low-motion joint に投与する獣医師が多いが、骨癒合の促進効果は未だに科学的に示されておらず、トリアムシノロンとの顕著な差は確認されていない。

invitroの研究においては、手根中央関節における100mg未満の投与量(10mg/mL未満)では軟骨代謝抑制作用のデメリットを上回る抗炎症作用が得られないと推定されるため、低用量投与は推奨されないとされてきた。しかし、invivoでは力学的負荷が加わることで低用量投与時の軟骨抑制作用が緩和される上に、2002年に報告されたDNAマイクロアレイ法を用いた研究論文では、メチルプレドニゾロンの抗炎症作用はデメリットを上回ると考察されている。

 

● 手根中央関節の骨軟骨症モデル(外科的に骨軟骨片を切除)にトリアムシノロン12mgを関節内投与すると、跛行スコア、関節液の性状(色スコア、グリコサミノグリカン濃度、ヒアルロン酸濃度)および滑膜・関節軟骨の組織学的評価に改善が認められたと報告されている。また、骨軟骨片を切除した手根中央関節に関節内投与した場合だけでなく、骨軟骨片を切除しなかった健常肢の手根中央関節内に関節内投与した場合も、骨軟骨片を切除した手根中央関節内のヒアルロン酸濃度およびグリコサミノグリカン濃度が改善した(跛行スコアの改善は認められなかった)。別の関節における抗炎症作用はメチルプレドニゾロンでは認められていない。

 

● トリアムシノロンの関節内投与推奨量は1関節当たり6-12mgだが、1頭当たりの総投与量が18mgを超えないようにすることで蹄葉炎の発症リスクを下げることができる、とされる。また、メチルプレドニゾロンについては、1頭当たりの総投与量が200mgを超えないようにすると良いとされる。しかし、高容量を投与しても蹄葉炎の発症率は依然として低いという報告が複数存在し、安全とされる投与量の科学的根拠は乏しい。患馬がメタボリック症候群やPPIDに罹患している場合に蹄葉炎を発症するリスクが高いと言えるため、ステロイドの投与量が少量であっても、事前に内分泌性蹄葉炎の発症リスクを評価しなければならない。

実験的にトリアムシノロン80mgを馬205頭に投与したところ、蹄葉炎を発症したのは1頭のみ(発症率0.49%)だったと報告されている。また、トリアムシノロン20-45mgを投与された症例2000頭を調べたところ、蹄葉炎を発症したのは3頭のみ(発症率0.15%)だったと報告されている。

 

● ベタメタゾン15-16mgを手根中央関節内に投与しても顕著な副作用は認められないが、in vitroでは低用量でもプロテオグリカン合成量の減少が確認される。トリアムシノロンの代替薬として使用できる可能性があると考えられるものの、使用例は少ない。

 

トリアムシノロンとヒアルロン酸の併用
ヒトの膝関節症においてトリアムシノロンと中分子量ヒアルロン酸を関節内投与することで、各薬剤を単剤投与した場合よりも長期にわたって効果が持続することが示されていることから、馬でも同様にトリアムシノロン3-5mgとともに中分子量ヒアルロン酸20mgを関節内投与すると、特にhigh-motion jointで治療効果が持続すると考えられてきた。

 

ヒアルロン酸を関節内に投与する場合、期待される最も重要な効果は関節液の粘度増加ではなく、抗炎症作用 (滑膜のPGE2放出抑制作用)、直接的な鎮痛作用、軟骨の変性抑制作用 (線維化:fibrillationおよびIL-1誘導性プロテオグリカン減少の抑制) である。抗炎症作用はヒアルロン酸の分子量に左右され、中分子量(50-100万Da)で最大となり、抗炎症作用により滑膜の状態が改善した結果、高分子量ヒアルロン酸の生成量が増加する。

 

近年行われた研究では、トリアムシノロン単剤投与との顕著な差は認められない、と報告されているが(跛行馬80頭の多施設無作為非盲検臨床試験により、3週間でAAEP跛行グレード2段階以上の低下を成功と定義している)、有用性を証明もしくは否定するためには、更なる研究が必要である。ちなみに、トリアムシノロンとアデカン(成分名:多硫酸グリコサミノグリカン)を手根中央関節の骨軟骨症モデルに投与したところ、各薬剤の単剤投与よりも効果が低かった、という報告がある。

 

<参考資料>
1. Joint Disease in the Horse p.202-214
2. Lameness in Horses 6e p.964-970
3. Equine Medicine 7 p.798-804
4. De Grauw JC et al. (2016) Intraarticular treatment with triamcinolone compared to triamcinolone with hyaluronate: a randomized open-label multicenter clinical trial in 80 lame horses. Equine Vet. J. 48,152-158 
5. David J. Murphy et al. (2000) The effects of methylprednisolone on normal and monocyte-conditioned medium-treated articular cartilage from dogs and horses. Vet. Surg. 29, 546-557
6. J. E. Dechant et al. (2003) Effects of dosage titration of methylprednisolone acetate and triamcinolone acetonide on interleukin-1-conditioned equine articular cartilage explants in vitro. Equine Vet. J. 35, 444-450
7. C. W. McIlwraith (2010) The use of intra-articular corticosteroids in the horse: What is known on a scientific basis? Equine Vet. J. 42, 563-571
8. J. C. De Grauw et al. (2016) Intra-articular treatment with triamcinolone compared with triamcinolone with hyaluronate: A randomised open-label multicentre clinical trial in 80 lame horses. Equine Vet. J. 48,152-158
9. D. D. Frisbie et al. (1997) Effects of triamcinolone acetonide on an in vivo equine osteochondral fragment exercise model. Equine Vet. J.29, 349-359
10. D. D. Frisbie et al. (1998) Effects of 6α-methylprednisolone acetate on an equine osteochondral fragment exercise model. Am. J. Vet. Res. 59, 1619-1628