ティルドレン、オスフォス<獣医師向け>

いずれもビスホスホネート製剤の一種であり、骨吸収を抑制する作用がある。ただし、Osphos 1.4mg/kgをナビキュラー症候群罹患馬6頭に筋肉内投与し、投与8週後に骨髄を採取したところ、非投与群6頭と比べて骨代謝マーカーの濃度に差は認められなかったが、跛行の程度に改善が認められた。したがって、単純に破骨細胞を抑制することで骨代謝に影響を及ぼし、跛行の程度を改善している訳ではないことが示唆される。

 

推奨投与量
商品名 Tildren:成分名 tiludronate disodium
1) 1mg/kgを90分以上かけて静脈内投与
2) 0.1mg/kg, 1日1回の静脈内投与を10日間

薬物動態に関する研究によると、1)の方が望ましいとされる。

商品名 Osphos:成分名 clodronate 
 1.8mg/kg(最大投与量900mg/頭)、筋肉内投与

 

商品名 Tildren:成分名 tiludronate
● 投与2ヶ月後まで最大効果が得られない場合がある。
● 投与後に疝痛徴候を呈す馬がいる(発生率は30-45%と報告されているが、数%という報告もある)ため、投与後4時間は馬の様子を観察することが望ましい。疝痛徴候は一時的な場合もあるが、90分程度持続する場合もある。疝痛徴候に対して投薬が必要となる場合には、腎毒性のリスクを考慮して、NSAIDsの投与は避ける。チルドロネート投与後48時間以内にNSAIDsを投与し、急性腎不全を発症した例が報告されている。チルドロネートには腎毒性が認められるため、腎機能の低い馬では禁忌であり(血中に投与された後、骨表面に吸着するが、50%は腎臓から排泄される)、腎機能が正常な馬でも、投与前に十分に飲水させる必要がある。
● 4才未満の馬における安全性は確認されていない。妊娠馬、授乳中の馬への投与は避ける。
● 実験動物において、高容量投与もしくは連続投与によって骨が脆弱化することが確かめられている。ヒト医療においては、ビスホスホネート製剤の副作用として、大腿骨の否定形骨折、顎骨壊死が良く知られている。これは、骨吸収を抑制することで骨代謝を減少させ、結果的に微細骨折が修復されにくくなるためだと考えられる。
● 投与後に低カルシウム血症を呈すため、心臓病罹患馬ではリスクが高い点にも注意する必要がある。また、血清カルシウム濃度が低下する薬剤(テトラサイクリンなど)や血清カルシウム濃度の低下を促進させる作用のある薬剤(アミノグリコシドなど)の影響下にある馬に投与する場合には、十分に注意する。

 

商品名 Osphos:成分名 clodronate
● 投与後1-2ヶ月以内に跛行の程度が認められる場合が多い。臨床徴候の改善効果は投与2ヶ月後に最大となるが、65%の馬で6ヶ月後まで作用が持続したという報告がある。跛行が再発した場合は、3-6ヶ月の間隔をあけて再投与する。
● 副作用として、投与してから2時間以内に不快感、緊張感、痙攣、前がき、疝痛徴候が認められる場合があるものの、その大半は10-15分間の曳き運動により改善する。チルドロネートと同様にNSAIDsとの併用により血中BUN濃度の上昇が観察されるため、NSAIDsとの併用は避ける。

 

ビスホスホネート製剤の世代
ビスホスホネート製剤は、窒素を含まない第1世代と窒素を含む第2・3世代で作用機序が異なる。Osphosは第1世代、Tildrenは第3世代である。
第1世代…細胞内で代謝され、ATP末端のピロリン酸構造を置き換えることでATPを競合阻害する。これにより、破骨細胞がアポトーシスに陥る。
第3世代…破骨細胞内タンパク質の輸送経路を遮断する。
ヒト医療では、第1世代は第2・3世代に認められるような消化管障害が認められないことが知られている。一般的に第1世代よりも第2・3世代の方が骨吸収抑制効果が高い傾向があるが、OsphosとTildrenの骨吸収抑制効果はあまり変わらないとされる。

 

<参考資料>
1. Lameness in Horses p.959
2. Dechraホームページ
3. cevaホームページ
4. A. Mitchell et al. (2019) Clodronate improves lameness in horses without changing bone turnover markers. Equine Vet. J. 51, 356-363