“ナチュラル・トリム“ の誤り (アメリカン・ファーリアーズ・ジャーナル記事の紹介)

※ アメリカン・ファーリアーズ・ジャーナル2017年3月号 (p.22-31) に掲載された記事の概要をご紹介します。

 

ナチュラル・フットが最も理想的な蹄のモデルであるという主張を検討するため、ブライアン・ハンプソンがオーストラリア野生馬の蹄に関する研究を行った。様々な地域に住む野生馬をそれぞれ複数用いて、遺伝的形態、移動歴、栄養状態、蹄の形、蹄の健常性について調べた論文が14個ある。これらは詳細に検討された結果、獣医学の科学雑誌に発表された。

 

野生馬の蹄の形が理想的である、と裸蹄主義の削蹄師、装蹄師、獣医師は主張する。裸蹄主義においては、乾燥地帯に住む馬の蹄の形が理想的である、とされている。しかし、乾燥地帯に住む馬の蹄の形に利点があるのか、あるいは何らかの欠点があるのかについての科学的データはない。母なる自然がベストを知っている、と裸蹄主義者は言うが、これは感情的な主張にすぎない。

 

ハンプソンは、異なる環境に住む6品種の馬についてのデータを比較し、まとめた。研究された馬の居住地は高地のアルプスから低地の沼地に及ぶ。馬の蹄の形は住んでいる環境に特有のものであり、他の環境に住む馬の蹄の形とは全く異なるものだった。

 

ハンプソンの主張は衝撃的だ。裸蹄主義者が理想的な蹄だと主張する裸蹄の形は乾燥地帯に住む馬の蹄の形だが、それは馬にとって最も有害な形だというのだ。ムスタング・ロール(過剰な上彎)、浅い蹄底、蹄側の削切は蹄の過度なすり減りによるもので、角質が伸びる前に蹄の各部位が損傷されてしまっている状態だった。これは全くもって馬にとって好都合な蹄の形などではない。母なる自然の施す ”セルフ・トリム” は馬を助けるものではなかったのだ。乾燥地帯の馬の蹄は、他の環境に住む野生馬の蹄と比べて、最も有害だった。

 

「様々な削蹄法が蹄の形態に与える影響」と題したハンプソンの研究成果は、更に印象的だ。ハンプソンは、裸蹄主義を広めている人々に、1年間の研究への参加を依頼した。裸蹄主義者たちは、裸蹄のイデオロギーを示すのに適していると思う馬を選別し、削蹄を行った。

 

研究に参加した裸蹄主義者たちは、野生馬の蹄の形は、野生馬にとっても、飼育馬にとっても理想的だ、という考えを持っていた。彼らの主張は、削蹄により蹄を自然な状態に戻し、伝統的な削蹄法の誤りを正す、というものだった。彼らは最終目標を明示し、なぜそれが馬にとって良いのかについても、あらかじめ説明した。彼らは全員、12カ月の間に蹄底の軟部組織の体積を増やすことができる、と述べた。

 

この研究では、22頭の馬を6週ごとに削蹄した。すべての蹄で削蹄前と削蹄後に測定、写真撮影、レントゲン検査を行った。この研究の目的は、様々な裸蹄モデルにおける蹄の形態の変化を記録することであり、1年後、ハンプソンがデータを集計した。結果は驚くべきものだった。
すべての馬で、裸蹄主義者が主張していた結果は得られなかったのだ。すべての蹄で伝統的な削蹄法より優れていることを示すことはできなかっただけでなく、一部の馬では、蹄に有害な影響があることが証明された。

 

例えば、蹄壁が著しく薄くならなかったのは、たった1種の裸蹄モデルだけだった。3種のモデルでは蹄尖の長さが著しく短くなっており、蹄踵の幅が広くなったモデルは1つもなかった。蹄底の深さは平均して20%減少した。蹄底の深さの減少は馬に有害であることが知られている。また、蹄球の長さに変化はなく、蹄底の軟部組織の体積も増加しなかった。

 

以上のように、”ナチュラル・トリム”の哲学は感情的な主張であり、科学的根拠がないことが証明された、とハンプソンは述べる。乾燥地帯の野生馬の蹄を削蹄で再現することの利点として挙げられているものに、科学的根拠はない。裸蹄主義者の「裸蹄は馬体にとって快適であり、馬の幸福につながる」という主張に根拠はない。