PPIDの薬物療法・高インスリン血症を緩和するための薬物療法<獣医師向け>

PPIDの薬物療法
PPIDの臨床徴候は薬剤投与によってある程度緩和できるが、PPIDが進行すると免疫抑制により細菌感染や寄生虫の多数寄生が生じやすくなるため、毛刈り、適切な装蹄、定期的な駆虫、歯科ケアが不可欠となる。特に歯周病は積極的に治療すべきであり、糞の虫卵検査も定期的に行うべきである。

 

@ ペルゴリド(Pergolide Mesylate)
● ペルゴリドはドパミン受容体作動薬(麦角アルカロイド)であり、ドパミン受容体に結合することでメラニン細胞刺激ホルモン再生細胞を抑制させる目的で投与する。D2受容体に結合するとACTHのプロホルモンであるPOMC(proopimelanocortin)の合成が抑制され、ACTHやαMSHなどPOMCをもとに合成されるホルモンの分泌が減少する。
● ヒトのパーキンソン病(ドパミン作動性神経の消失が進行する病気)の治療薬として開発された。
● 投与を始めると、馬が活発になることが多い。下垂体中葉の過形成や腺腫の進行を止めるかどうかは不明だが、この薬の薬理作用を考えると、この効果も得られる可能性は十分にあると考えられる。
● 副作用に乳量低下があるため、分娩の1ヶ月前までに治療を始めるべきである。1-2ヶ月の投与でACTHが基準値に戻る場合が多い。

 

ペルゴリドの投与方法
<投与開始>
ペルゴリドの開始投与量は2μg/kgで、 24時間ごとに経口投与する。1/3の症例で食欲の低下が見られると報告されているが、これは投与開始2日目まで投与量を減らすことで防げる場合が多いと言われる。

 

<投与開始1ヶ月後>
投与を開始した1ヶ月後に血液検査を行い、ACTH濃度および血糖値の低下が確認されるかどうか調べる。また、馬の活発化、多飲多尿の改善が観察されるかどうか確認する。ただし、症状の改善が認められるまでに2ヶ月程度かかる場合もある。
● ACTH濃度、血糖値の低下および症状の改善が認められる場合
投与量はそのままで少なくとも6ヶ月ごとに再検査する。
ただし、8〜10月の期間に1度は検査を行う。これによりACTHの季節的な増加を評価し、ACTH濃度が上昇する季節でも十分に管理されていることを確認する。
● ACTH濃度、血糖値があまり低下しないものの症状の改善が認められる場合
投与量はそのままか、もしくは獣医師の判断により増量する。
● ACTH濃度、血糖値が低下せず、症状の改善も認められない場合
1-2μg/kg/dayで増量し、1ヶ月後に再検査する。
最大投与量は10μg/kg/dayである。ペルゴリドの投与量が6μg/kg/dayに達した場合、シプロヘプタジン(0.25mg/kg, PO, 12時間ごと、もしくは0.5mg/kg, PO, 24時間ごと)を併用しても良い。

 

ペルゴリドの効果・効能
● 投与開始後30日間に観察される初期効果
活発化、多飲多尿の改善、高血糖の改善
● 投与開始後1ヶ月〜1年で観察される長期効果
多毛症の改善、骨格筋の増加、腹囲の減少、細菌感染の減少、蹄葉炎の症状緩和(不確実であり、投与しても蹄葉炎の進行を抑制できる、または発症を防げるとは言い切れない)

 

ペルゴリドの副作用
● 食欲不振
約1/3の症例で投与開始後数週〜1ヶ月にわたって食欲不振が観察されると報告されている。特に投与開始2日目まで投与量を減らすことで防げる場合が多いとされる。それでも食欲不振が認められた場合は、投与を数日間中止した後、投与量を半分に減らすか、1日投与量を2回に分けて投与を再開し、徐々に投与量を増量する。開始投与量を低量にし、1〜2週かけて投与量を増量する臨床獣医師も多い。
● 乳量低下
1〜2ヶ月の投与でACTHが基準値に戻る場合が多いので、分娩の1〜2ヶ月前までに治療を開始し、分娩後に投与を中止する。
● 10%以下の症例で嗜眠傾向、疝痛、下痢、跛行、体重減少が認められると報告されているが、薬の副作用であるとは言いきれない。

 

A シプロへプタジン(Cyproheptadine)
シプロへプタジンはセロトニンを拮抗することで血漿中ACTH濃度を低下させるが、ペルゴリドの方がACTH濃度を低下させる効果が高い。セロトニンは下垂体中葉のメラニン細胞刺激ホルモン産生細胞を刺激する神経伝達物質である。
ペルゴリドの投与量が6μg/kg/dayに達したとき、シプロヘプタジンの併用を始める。シプロヘプタジンの推奨投与量は0.25mg/kg, PO, 12時間ごと、もしくは 0.5mg/kg, 24時間ごとである。治療中、馬の鎮静化が観察されることがある。

 

高インスリン血症を緩和するための薬物療法
@ メトフォルミン(Metformin Hydrochloride)
(1) メトフォルミン (Metformin)
筋・脂肪組織へのグルコースの取り込みを促進するととともに、肝臓における糖新生を抑制することでインスリン抵抗性を改善する。蹄葉炎罹患馬がインスリン抵抗性を示している場合は、メトフォルミンの投薬により、内分泌性蹄葉炎の痛みを抑える効果が期待できる。
静脈内投与するよりも経口投与する方が効果的で、さらに、給餌の30〜60分前に投薬することが望ましい。投与量は15〜30mg/kgで、1日2〜3回投与することが望ましい。
ある報告によると、15mg/kgの1日2回投与により、2週間以内に血中インスリン濃度の改善が認められた。その後、経口投与後の生体内利用率(bioavailability)は馬では絶食時でも7%であり、50〜60%であるヒトやラットと比べて極めて低いことが判明したことから、その有用性に疑問が呈されたが、30mg/kgを給餌前に投与すると、高インスリン血症を緩和する効果があることが確認された。現在では、メトフォルミンの有用性を裏付けるデータが集積しつつある。

 

A レボチロキシン・ナトリウム(Levothyroxine Sodium)
肥満時に体重減少を早めるとされ、高インスリン血症が認められるが体重が減少しにくい場合に投与する。アメリカでは使用されているが、ヨーロッパではその値段の高さから、あまり用いられていない。日本でも、費用の点から、使用は現実的ではないと考えられる。
開始投与量は0.1mg/kg(PO, 24時間ごと)で、1ヶ月続けても体重が減らない場合は0.15mg/kgに増量する。穏やかな甲状腺機能亢進症が生じるため、投薬期間は3〜6ヶ月間までにすべきである。低用量なら連続投与しても安全である可能性はあるが、科学的根拠はない。

 

<参考資料>
1. Equine Medicine 7 p.569-577
2. Equine Laminitis p.334-340, 415, 439
3. E. J. Knowles (2019) Does pergolide therapy prevent laminitis in horses diagnosed with pituitary pars intermedia dysfunction? Equine Vet. J. 31, 278-280
4. Andy E. Durham et al, ECEIM cconcensus2statement on equine metabolic syndrome, Journa of Equine Intenal Medicine, 2019, DOI: 10.111/jvim.15423