蹄葉炎罹患馬がインスリン抵抗性を呈す場合の栄養管理

蹄葉炎に罹患している馬がインスリン抵抗性を呈す場合、水溶性炭水化物の摂取量を抑えることが最重要だが、他の栄養素の摂取量にも気を配る必要がある。
ヒトや実験動物では、特定の栄養素の過不足により、インスリン抵抗性が上がることが報告されている。特定の栄養素を過剰量摂取させることで相対的に別の栄養素の吸収量が下がるため、サプリメントの過剰添加は避ける。

 

@ 乾草の選択
可能であれば、NSC(非構造性炭水化物 ※1)≦12%のものを選ぶ。NSC(非構造性炭水化物)≦10%の乾草を必要とする馬もいる。このような乾草が手に入らない場合、乾草を水に浸けることによって水溶性炭水化物を水に溶かして除去することができる。具体的には、乾草をお湯に30分もしくは水に60分程度浸したあと、水を除去して馬に与える
インスリン抵抗性を呈す馬の中には、アルファルファ乾草が悪影響を与えるものがいる。理由は解明されておらず、水溶性炭水化物の含有量が低いアルファルファ乾草でも良くないことがある。したがって、アルファルファ乾草の多給は避けた方がよい。アルファルファ乾草による悪影響が見られないようなら、乾草の総量の10〜20%をアルファルファにしてもよい (※2)。

 

(※1) 炭水化物の表記と分類セルロースやペクチン(可溶性と不溶性のものがある)など植物の細胞壁を構成する炭水化物を構造性炭水化物といい、それ以外の炭水化物を非構造性炭水化物という。非構造性炭水化物には、水に溶ける水溶性炭水化物(フラクタンなど:蹄葉炎を発症させるフラクタンとは)とデンプンがある。馬などの草食動物では、構造性炭水化物が腸内の細菌によって分解されて吸収できる形になるため(肉食動物の腸内にも構造性炭水化物を分解できる細菌が存在するが、草食動物に比べて非常に少ない)、草に含まれる構造性炭水化物をエネルギー源として利用できる。

 

(※2)チモシー乾草の方がアルファルファ乾草よりも水溶性炭水化物を多く含むため、むしろチモシー乾草を避けるべきだ、という主張も存在する。しかし、水溶性炭水化物は水に浸せば除去できるため、水溶性炭水化物を除去して与えるのであれば安全性が高いと考えられる。

 

A 体重を落とすために給餌量を過剰に制限することは間違いである
カロリー摂取量を過剰に制限すると、インスリン抵抗性が上がることが多い。乾草のDE(可消化エネルギー)はおよそ1.4-1.65kcal/kgであり、理想的な体重(ボディーコンディションスコア5)の1.5〜2%(500kgの馬なら7.5〜10kg)の乾草を与えるべきである (肥満馬の減量プログラム)。ビートパルプを与える場合、1.5kgの乾草を1kgのビートパルプで代用できる(※3)

 

(※3) ビートパルプの給餌ビートパルプは腸内微生物により分解されやすい繊維であるペクチン(構造性炭水化物)を多く含むため、乾草の代わりに給餌することができる。ただし、ペレット状のものは結着剤として糖蜜が使われていることが多いため、飼料成分表に糖蜜という記載がなくても、避けた方が賢明である。糖蜜が添加されていないビートパルプの非構造性炭水化物含有率は4〜5%であるが、糖蜜が添加されると、非構造性炭水化物含有率が10%以上に跳ね上がる。ビートパルプ:米ぬか=8:1で混合した飼料は、ビートパルプ単体に比べて嗜好性が良いがGI値が低く(GI値とは食後に血糖値がどのくらい上昇するかを表す値で、GI値が低いほど食後の血糖値の上昇が穏やかである)、ミネラルのバランスも良い。ただし、体重を落とす必要がある場合は、ビートパルプの給餌量を1日500g以下(乾燥重量)に抑えるべきである(ビートパルプはカロリーが高く、可消化エネルギーは乾草の1.5〜2倍である)。体重を増やしたい場合には、乾草の一部をビートパルプに置き換えることによって安全に体重を増やすことができる。

 

 

B インスリン抵抗性が認められるものの、痩せている馬への給餌
PPIDなどにより、顕著なインスリン抵抗性が認められるものの、痩せている、または急激に体重減少が進行する場合がある。この場合でも、非構造性炭水化物の摂取量を控える必要があり、既述の通り水に60分またはお湯に30分浸して水溶性炭水化物を除去したチモシー乾草とビタミン・ミネラル・必須アミノ酸のサプリメントを与えるが、加えて125mL程度のベジタブル・オイル(約100gの脂肪を含む)を与えると良い。また、糖蜜が添加されていないビートパルプを水に浸し、水溶性炭水化物を除去してから与えても良い。

 

PPIDの症状はどのように進行する?

 

 

C ビタミン・ミネラルの添加
● どのミネラルも、現在、飼養標準に記載されている必要最低量の1.5倍量を与える
● Ca:P:Mg=1.5:1:1〜2:1:1 
(高齢馬ではPの吸収率が低下するため、Ca:P=1.5:1が理想である)
● Cu:Z:Mn=1:2.5-3:3
● Cu:Fe=1:10以下
● セレニウム=1mg以下 /体重100kg
● ヨウ素=1mg以下 / 体重100kg
● クロム=0.5〜1mg / 体重100kg
● ビタミンE=400IU / 体重100kg
● ビタミンC=500mg / 体重100kg(エステル化ビタミンC=50mg / 体重100kg)
● リジン=1500mg / 体重100kg (※4)
● メチオニン=500mg / 体重100kg

 

ポニーでは高脂肪食によってインスリン抵抗性が上がることが知られている。馬では、高脂肪食はインスリン抵抗性を悪化させるリスク因子ではないと言われているが、避けた方が賢明である。
馬以外の動物ではインスリン抵抗性を改善させる上で高タンパク食が有効だが、馬では有害である。アミノ酸(タンパク質の構成成分)の中にはインスリンの分泌を促進させるものがあるため、十分量のタンパク質を摂取することは必要だが、過剰量であってはならない。多くの乾草にはタンパク質が7.5%含まれており、体重の2%の乾草(500kgの馬で10kg)に1日に必要な粗タンパク質の十分量が含まれる。1日分の乾草が体重の1.5%(500kgの馬で7.5kg)ならば、タンパク質含有量が10%の乾草を与える必要がある(※5)。

 

(※4) 乾草はリジン(必須アミノ酸の1つ)の含有量が少ないため、サプリメントなどで補う必要がある。
(※5) 運動させないために濃厚飼料の給餌を必要としない場合でも、粗飼料のみの給餌ではビタミン、ミネラル、必須アミノ酸が不足するため、粗飼料に加えてバランサー、サプリメントを給餌する必要がある。

 

D 補足:他の添加物
ヒトや他の実験動物では、シナモンがインスリン抵抗性を改善することが報告されている。シナモンはインスリンに構造が似ている。馬でも、2.2mg/kg/dayのシナモンを2回に分けて食餌に添加すると、血糖値がやや低下する傾向があると報告されているが、確かな科学的根拠はなく、更なる研究が必要である。
甘葛(Jiaogulan=甘茶蔓gynostemma pentaphyllum)は漢方薬で、血管内皮の一酸化窒素(血管を拡張させる)の合成を促進し、炎症性窒素酸化物の誘導を抑制するとされる。実験的に、ある程度の鎮痛効果が確かめられている。

 

<参考資料>
1. Equine Podiatry p.374-375
2. Equien Medicine7 p.572-573