削蹄前後で先着部位は変わる?

装蹄師は皆、削蹄前後で先着部位が大きく変わらないことを経験的に知っているが、これを科学的に証明したデータがある。

 

荷重分散センサーを用いて温血種18頭の荷重の分配を四肢について測定したところ、削蹄することで着地後に蹄が安定するまでの時間が顕著に短くなったものの、先着部位に変化は見られなかった。
着地後に蹄が安定するまでの時間は後肢で前肢の約2倍 (前肢6.7ms, 後肢16.7msec) であり、削蹄により着地時に蹄を安定させる効果は前肢の方が後肢よりも大きい。ちなみに、この「着地後に蹄が安定するまでの時間」は人の目では観察できない。また、18頭のウォームブラッドで測定したところ、着地後に蹄が安定するまでの間、荷重が外側に偏っていた馬の割合は前肢で装蹄前63.3% (装蹄後57.8%)、後肢で装蹄前97.8% (装蹄後96.7%) だった。

 

また、ウェッジ・パッドを用いて5頭の左前肢・蹄外側を4°上げ、圧力分散センサーを用いて蹄荷重および先着部位の変化を測定したところ、先着部位の一貫した変化は認められなかったことも報告されている。5頭中2頭はウェッジ・パッド挿入前の先着部位が蹄内側だったが、蹄外側を4°上げることで平坦踏着になった馬は1頭のみだった。また、1頭についてはウェッジ・パッド挿入後に先着部位がやや蹄外側に移動した。

 

ちなみに、ウェッジ・パッドを用いてサラブレッド8頭の蹄内側あるいは蹄外側を3.7°上げ、フォース・プレートを用いて荷重中心点の移動を測定すると、内を上げたときの方が、荷重中心点がより大きく内に移動する。

 

経験豊富な装蹄師が削蹄した後にレントゲン撮影をすると、やや蹄内側が低いように見える傾向があるそうだ。ただし、獣医師がレントゲン撮影をする際には、基本的に馬を「スクエア」に立たせる。これは標準肢勢 (前肢の蹄が肩端の真下、後肢の蹄が臀端の真下に位置する肢勢で、基準となる肢勢とされるが、実際にこのような体型をした馬はほとんど見られない) に近い立ち方をさせる、ということを意味しており、レントゲン画像に映し出された指骨・趾骨のバランスは、馬が自然に駐立しているときのバランスではないと言える。したがって、少なくとも「蹄の内外バランス」は、レントゲン画像では正確には判断できないだろう。例えば、サラブレッドは胸幅が狭いため、広踏肢勢になることが多い。広踏の程度が強い馬を無理矢理「スクエア」に立たせて蹄のレントゲン撮影を行ったときの内外バランスが、正しいと言えるのだろうか。では、馬が自然に駐立している状態で蹄のレントゲン撮影を行えば良いのか。しかし、「自然な駐立肢勢」をどのように判断すれば良いのだろうか。
馬は走行スピードが速くなるほど、肢を内に踏む。したがって、装蹄師は、馬の常歩を観察することで馬の自然な駐立肢勢や速歩、駈歩、襲歩を想像し、適切な蹄のバランスに整えている。

 

「適切な蹄の内外バランス」はどのように判断すればよいのか。今後の議論が待たれる。

 

<参考資料>
1. Van Heel et al. (2004) Dynamic pressure measurements for the detailed study of hoof balance: the effect of trimming. Equine Vet. J. 36, 778-782
2. Jenny Hagen et al. (2016) Modifying horseshoes in the mediolateral plane: Effects of side wedge, wide branch, and unilateral roller shoes on the phalangeal alignment, pressure forces, and the footing pattern. J. Equine Vet. Sci. 37, 77-85
3. A.M.Wilson et al. (1998) The effect of foot imbalance on point of force application in the horse. Equine Vet. J. 30, 540-545