蹄葉炎

蹄葉炎記事一覧

蹄葉炎とは蹄葉炎とは、葉状層の損傷により蹄内部に吊るされていた蹄骨が剥がれ落ちてしまう病気である。蹄葉炎と呼ばれるが、葉状層に炎症が認められるもの全てを指す訳ではなく、葉状層の剥離性損傷が認められる場合にのみ蹄葉炎と診断される(急性期、病態形成期にも顕微鏡で葉状組織を観察すると蹄葉炎特有の異常が認められる)。原因蹄葉炎の原因は非常に多様であり、発症メカニズムは未だに完全には解明されていないが、原因...

装蹄師および獣医師が到着するまでの対処法葉状層は、通常の体重負荷に耐えられない状態に陥っている。したがって、馬をなるべく動かさないことが最重要である。また、ブーツ等を用いて球節以下を持続的に冷却する必要がある(丈夫なビニルパックに氷水を入れて球節以下を漬け込みダクトテープで固定する方法もある)。多量の敷料を馬房内に敷いておくことも非常に重要だ。砂が望ましいが、難しい場合は大量のオガ、土などを敷いて...

濃厚飼料は、@食餌性蹄葉炎とA内分泌性蹄葉炎を引き起こす可能性がある。@食餌性蹄葉炎は、馬の消化能力を超えた多量の濃厚飼料を一度に与えることで引き起こされる。馬は小腸でデンプンを消化する能力が低く、一度に多量の濃厚飼料を摂食すると、本来は小腸で消化されるはずのデンプンが消化しきれずに大腸に流入してしまう。大腸に流入したデンプンは腸内細菌によって分解されるが、その結果、腸内環境が変わるため、腸内細菌...

クッシング症候群とは犬では脳下垂体(脳の一部)または副腎が腫瘍化することで、コルチコステロイドホルモンの分泌が過剰になることがわかっているが、馬の場合は腫瘍ではなく脳下垂体中葉の肥大・過形成が原因であるため、正式にはクッシング症候群ではなくPPID(pituitary pars intermedia dysfunction)と呼ばれる。PPID罹患馬では必ずしも副腎皮質の肥大が確認される訳ではなく...

近年、急性蹄葉炎を発症した際に、深屈腱のテンションを緩めるために過度にheel-upすることは誤りである、という主張が見られる (蹄踵が潰れていて後方破折している場合には、趾軸を一致させる程度のheel-upは許容される)。急性蹄葉炎において過度にheel-upしてはいけない、という主張の根拠は、heel-upすることで蹄骨への力のかかり方と葉状層の向きが変わるため、結果的に蹄骨にかかる体重により...

専門書Equine Laminitisでは、蹄葉炎を原因別に以下の3種に分類している。(1) 敗血症性蹄葉炎(2) 負重性蹄葉炎(3) 内分泌性蹄葉炎盗食などにより濃厚飼料を一度に過剰量摂取したあとに発症する食餌性蹄葉炎は、腸内細菌叢のかく乱により生じる大量の細菌由来毒素が蹄葉炎の引き金となることから、(1) 敗血症性蹄葉炎に分類されている。敗血症性蹄葉炎は、体重1kgあたり17.6gのデンプンを...

植物内で蔗糖と果糖から合成される水溶性炭水化物。低温環境下でも凍結しない糖であるため、寒冷期に植物が栄養分として蓄積する。したがって、春先の牧草に多く含まれ、寒冷環境下では、牧草の乾燥重量の40%に達するほど牧草内に蓄積されることもある。フラクタンは体内で消化されず微生物の発酵によって分解される非構造性炭水化物であるため、大半は小腸で消化されずに大腸に至り、大腸内で細菌によって分解される。一度に大...

初期症状● 体毛異常体毛のわずかな異常を呈す。冬毛が抜けるのが遅れ、毛が長く、くすんだ色になる。毛の抜け換わりの時期は日の長さ=緯度によって決まるので、同じ牧場にいる他の馬と比較すると良い。冬毛の大部分が抜けても四肢の掌側・底側部、肘下、下顎の下に毛が残っていることが多い。● 代謝の変化特に馬メタボリック症候群と診断されていた馬が急速に痩せることが多い。肥満馬の筋量が減少し、体重を維持するためには...

肥満馬の体重を減少させたい場合、穀類の給餌量を減らすとともに、乾草の1日給餌量を以下のように段階的に減らす。乾草のみの給餌になる場合、ビタミン、ミネラル、必須アミノ酸を含むサプリメントを与える必要がある。<乾草の1日給餌量の減量>現時点の体重の1.5% → 4週後に変化が認められない → 理想体重の1.5%    → 4週後に変化が認められない → 理想体重の1.25%● ポニーの場合、乾草の1日...

蹄葉炎に罹患している馬がインスリン抵抗性を呈す場合、非構造性炭水化物の摂取量を抑えることが最重要だが、他の栄養素の摂取量にも気を配る必要がある。ちなみに、燕麦、大麦、トウモロコシののデンプン含有量は、それぞれ乾燥重量の45-55%, 60-65%, 65-75%であり、穀類に加えて糖蜜が添加されている飼料では45-55%に達することがある。ヒトや実験動物では、特定の栄養素の過不足により、インスリン...

● 蹄葉炎をレントゲン検査にて評価する際には、まずラテラル像 (外内側像) が確実に真横から撮影されていることを確認する。真横から10°以上ずれていると、ローテーションが過小評価される。● レントゲン画像において長さを厳密に計測するためには、レントゲン画像に長さのわかるものを写り込ませてレントゲン画像上の長さを補正する必要がある。1〜2mmの差が意味を持つことがある蹄のレントゲンでは、レントゲン画...

蹄葉炎の抗炎症療法に目覚ましい発展は認められず、最もよく使用される薬剤は未だに非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)である。しかし、慢性蹄葉炎では神経障害性疼痛が疼痛の一因となると報告されており、急性蹄葉炎でも侵害受容器の刺激によって脊髄神経の興奮性が高まることが疼痛の原因となり得ることが指摘されているため、疼痛を緩和するためには、NSAIDsに限らない多様なアプローチ法を検討すると良いと考えられ...

少なくとも敗血症性蹄葉炎に限って言えば、炎症反応の調節不全が組織損傷を進行させる鍵となることは間違いない。しかし、残念ながら蹄葉炎の病態形成を食い止めるための抗炎症療法に目覚ましい発展は認められず、最もよく使用される薬剤は未だに非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)である。薬物による抗炎症療法@ フルニキシン・メグルミン 1.1 mg/kg、1日1〜2回、経口投与または静脈内投与近年の研究により、...

蹄葉炎では、血管痙攣や血栓による損傷が虚血や炎症をもたらすという考え方から、血流改善薬が用いられてきた。@ イソクスプリン(Isoxsuprine)最もよく用いられる薬剤としてイソクスプリン(1.2mg/kg, PO, 12時間ごと)が挙げられる。ヒトでは血液の粘度を下げ、血小板の凝集を減らす効果があるとされているが、馬においては蹄内血流を改善させる効果が確認された例はなく、経口投与薬の生体内利用...

PPIDに続発する蹄葉炎の直接的な原因はインスリン抵抗性であると考えられているため、PPIDを診断するとともに、インスリン抵抗性の有無を判定する必要がある。インスリン抵抗性はPPID罹患馬のうちおよそ70%で認められると報告されている。(PPID罹患馬では必ずしも副腎皮質の肥大が確認される訳ではない)顕著なインスリン抵抗性が認められる場合、食餌療法とともに高インスリン血症を緩和する効果のあるメトフ...

PPIDの薬物療法PPIDの臨床徴候は薬剤投与によってある程度緩和できるが、PPIDが進行すると免疫抑制により細菌感染や寄生虫の多数寄生が生じやすくなるため、毛刈り、適切な装蹄、定期的な駆虫、歯科ケアが不可欠となる。特に歯周病は積極的に治療すべきであり、糞の虫卵検査も定期的に行うべきである。@ ペルゴリド(Pergolide Mesylate)● ペルゴリドはドパミン受容体作動薬(麦角アルカロイド...

コルチコステロイドの投与により実験的に蹄葉炎を誘発できた例はないが、コルチコステロイドには蹄葉炎の発症リスクを上げる作用があると考えられる。実験的に投与した場合、蹄葉炎の発症率は著しく低い。例えば、実験的に80mgのトリアムシノロンアセトニドを205頭の馬に投与したところ、蹄葉炎を発症したのは1頭のみだったと報告されている。しかし、臨床症例においては、トリアムシノロンアセトニドの関節内投与後に医原...

インスリンが蹄葉炎を発症させるメカニズムについては未だに全容解明には至っていないが、いくつかの仮説が提唱されている。@ 表皮葉の基底細胞には強力な細胞分裂促進因子・成長因子であるIGF-1(インスリン様成長因子-1)受容体が存在するため、超生理的な濃度のインスリンがトリガーとなって基底細胞が異常増殖すると推定される。したがって内分泌性蹄葉炎では長く薄い二次表皮葉が観察され、stretched /e...

高齢馬はPPIDを発症しやすいPPIDは7歳以上の馬が性差なく発症するが、特に15歳以上の馬に多い。これは酸化ダメージによりドパミン作動性神経の変性が進行するためである。ドパミン作動性神経(dopaminergic neuron)は視床下部(hypothalamus)から下垂体中葉の脳室周囲神経核(periventricular nuclei)まで伸びており、ドパミンを分泌することでメラニン細胞刺...