蹄葉炎への血流改善薬の適用<獣医師向け>

蹄葉炎では、血管痙攣や血栓による損傷が虚血や炎症をもたらすという考え方から、血流改善薬が用いられてきた。

 

@ イソクスプリン(Isoxsuprine)
最もよく用いられる薬剤としてイソクスプリン(1.2mg/kg, PO, 12時間ごと)が挙げられる。
ヒトでは血液の粘度を下げ、血小板の凝集を減らす効果があるとされているが、馬においては蹄内血流を改善させる効果が確認された例はなく、経口投与薬の生体内利用率(bioavailability)も不明であるため、効果が疑問視されている。ただし、蹄葉炎やナビキュラー症候群に対して効果を実感する臨床獣医師が多いようで、エビデンスが乏しいとされながらも、使用され続けている薬剤である。

 

A アセプロマジン(Acepromazine)
アセプロマジン(0.02mg/kg, IM, 6-8時間ごと)も血流改善薬として用いられてきた。αアドレナリンの拮抗薬であるため血管拡張作用があることが仮説として提唱されてきたが、掌側指動脈の血管拡張作用はわずかであり、蹄葉炎における有効性は実証されていない。吊起帯を用いる必要がある馬では、馬の活動性を下げることを目的とした投与は有効である。

 

B ニトログリセリン(Nitroglycerin)
健康な馬の蹄冠部にニトログリセリン・パッチを貼り付けても、掌側指動脈の血流は改善されなかった。経皮投与の有効性、生体内利用率(bioavailability)は不明であり、半減期が短いことからも、有用性は疑問視されている。

 

C ペントキシフィリン(Pentoxifylline)
蹄葉炎の実験モデルにおいて血小板の過凝集(hyperaggregation)と血小板−好中球凝集物の増加が観察されることが明らかになってから、ペントキシフィリンが注目されるようになった。ペントキシフィリンは非選択性のホスホジエステラーゼ阻害薬であり、当初は赤血球の変形能を高めることによる血流改善効果が期待されたが、ウマでは血流改善効果が確認されないことが明らかとなった。
その後、in vitroにおいてウマの全血中サイトカイン量を減少させる効果やMMP2およびMMP9の活性を阻害する効果があることが判明したことで注目された。実際に、ペントキシフィリン(8.8mg/kg)を1Lの生理食塩水内に混合し、LPS(lipopolysaccharide)投与12時間前、LPS投与開始時(LPS投与は30分かけて行う)、LPS投与12時間後に静脈内投与すると、LPSによって誘導されるMMP2とMMP9の活性が低下することが報告されている。その効果は実症例においては証明されていないものの、推奨投与量は8.8mg/kg(PO, 12時間ごと)である。

 

<参考資料>
1. Equine Medicine 6 p.545
2. Equine Laminitis p.102-114
3. Lee Ann Fugler et al. (2013) Plasma matrix metalloproteinase activity in horses after intravenous infusion of lipopolysaccharide and treatment with matrix metalloproteinase inhibitors. Am. J. Vet. Res. 74, 473-480