鶏跛 (stringhalt)

鶏跛 (stringhalt) とは

 

飛節と膝が不随意性に過剰屈曲する疾患。重症例では、球節が腹部に触れるほど肢が高く上がることもある。機械性跛行に分類される。

 

機械性跛行とは、筋肉を支配している神経の異常や、筋骨格系の機能異常・構造異常に起因する跛行をいう。

 

 

 

原因・病態
● 中足骨の近位背側面における外側趾伸筋腱の裂傷により、腱の癒着が生じている例がある。この場合は自然治癒することはほとんどないが、休養によりやや改善する場合もある。
● Australian stringhalt はオーストラリアとニュージーランドに限定するものであり、通常は両側性で、牧草の乏しい晩夏〜秋に多い。原因は有毒な雑草 (タンポポなど) とされるが、これが直接的な原因となる訳ではなく、実験的に誘発することはできない。マイコトキシン (カビが産生する毒) が関与するという仮説がある。
● Australian stringhalt では、末梢神経の軸索変性が認められると報告されている。最も顕著なのは再発性の喉頭神経・腓骨神経・脛骨神経麻痺で、下腿部の筋萎縮とともに喉頭片麻痺が観察される。多くの筋が萎縮するが、顕著のは外側輪状披裂筋、外側趾伸筋、腓腹筋である。
● 過剰屈曲の病態生理は未だに不明だが、衰弱した伸筋が屈筋 (大腿二頭筋、半腱様筋) に圧倒されるという説が有力である。

 

臨床徴候
● 軽度な屈曲〜蹄が腹部に届くほどの重度な屈曲があり、毎歩見られる場合と発作的に見られる場合がある。ほぼすべての症例で後退させると症状が悪化する。休養後に顕著になることが多いが、症状を呈さない時期もある。
● 日常的に放牧されている馬が、晩夏〜初秋にかけて、特に乾燥した時期のあと発症する例が多い。また、気温の高い時期に臨床徴候が改善する場合が多い。

 

治療法
● 自然治癒することは滅多にないが、休養や運動制限により自然治癒することもあり、神経軸索の再生によると考えられている。フェニルブタゾンの投与により臨床徴候が緩和する症例でも、4日〜3ヶ月 (平均25日) で再発すると報告されている。
● 外側趾伸筋の筋腱切断術 (myotenectomy) が行われる。改善の程度は症例によって異なり、ある報告では、筋腱切断術を行った13頭中6頭は術後すぐに正常に歩けるようになり、5頭は術後4〜12日で正常に歩けるようになった。これらの11頭のうち、過剰屈曲が再発した例はなかった。残る2頭のうち1頭は、術前、動きたがらない状態であり (Grade 5/5, Huntington et al. 1989 classification based on clinical signs)、過剰屈曲が数秒持続するために常歩できず、うさぎ跳び様歩様を呈していた。この症例では術後も過剰屈曲がやや緩和するにとどまり、術後数週で術前の状態に戻った。もう1頭は、術前に重度な過剰屈曲が認められ、駐立時でも球節が腹部に触れるほど過剰に屈曲することがあり、後退が難しい状態だった (Grade 4/5)。この症例では術後、正常の歩様を呈したが、3ヶ月後に過剰屈曲を再発した。オーナーが毎日20分の曳き運動を行ったところ、過剰屈曲徴候が消失した。以上より、外側趾伸筋の筋腱切断術は予後が良いと考察されている。
● 治療用超音波や足根関節へのステロイド投与に反応することもあり、過剰屈曲は足根遠位の痛みに対する反応である可能性があると言われている。
● Australian stringhalt では、放牧地から移動させると自然治癒する例が知られている。ただし回復には数週〜1年程かかる。
● 中枢性筋弛緩薬であるメフェネシン (mephenesin) が有効であるという報告が1例ある。他に中枢性筋弛緩薬であるフェニトイン (phenytoin)、バクロフェン (baclofen) も有効だと言われるが、更なる報告が必要である。

 

<参考資料>
1. Lameness in Horses p.767-769
2. F. Torre (2005) Clinical diagnosis and results of surgical treatment of 13 cases of acquired bilateral stringhalt (1991-2003) Equine Vet. J. 37, 181-183