労作性横紋筋融解症(ER:Exertional Rhabdomyolysis)<獣医師向け>

麻痺性筋色素尿症 (Paralytic myoglobinuria), タイイング・アップ (Tying-up), 窒素尿症 (azoturia), Monday morning diseaseなどの用語も使われる。栄養バランスの異常や環境要因によって発症する例も明らかになっており、原因が特定されれば治療しやすい。

 

原因
● 多量の穀類を給餌されている馬は、労作性横紋筋融解症 (Exertional Rhabdomyolysis) を発症しやすい。これは、デンプンを多量に摂取することが再発性横紋筋融解症 (RER:Recurrent exertional rhabdomyolysis) やtype1多糖類蓄積性筋疾患 (PSSM:type 1 polysaccharide storage myopathy) など特定の横紋筋融症の引き金となるためである。

 

● 労作性横紋筋融解症の要因の1つは、ビタミンE欠乏およびセレン欠乏によるフリーラジカルの増加であると考えられてきた。しかし、労作性横紋筋融解症に罹患した馬でフリーラジカルの増加が確認された例はなく、セレン欠乏が労作性横紋筋融解症の要因となることが実証された例もない。実際に、労作性横紋筋融解症が頻発する競走馬でも、サプリメントを日常的に与えているためにビタミンEとセレンの血中濃度は高いことが多い。血中セレン濃度は、0.07μg/mLで十分だが、ビタミンEは、血中濃度が低いことで筋肉痛、筋攣縮、筋弱、筋肉量の低下を呈すことがあると考えられている。早期はビタミンEの添加により臨床徴候が改善する可能性があるが、欠乏状態が長期にわたると運動神経の損傷が進行し、治療効果が望めなくなる。血清中ビタミンE濃度の最低値は2.0μg/mLである。(ビタミンE欠乏症:馬モーターニューロン病)

 

再発性横紋筋融解症(RER)
● 神経質な馬、特に牝馬は横紋筋融解症を多発しやすい。遺伝的に素因のある馬で、間欠性・ストレス誘発性に臨床徴候が観察されることが多い。

 

● 再発性横紋筋融解症の馬は血清中CK濃度の間欠的な上昇を呈し、運動中に興奮すると、発汗、筋拘縮が観察される。稟告がパフォーマンスの低下のみである場合もある。再発性横紋筋融解症の特徴は筋線維束の感受性が異常に高いことであり、カフェインやハロタンにより筋線維束の拘縮が誘発される。再発性横紋筋融解症に罹患した馬の筋組織では筋中カルシウム濃度が上昇することが報告されている。

 

● 再発性横紋筋融解症における筋拘縮は、生理的に悪性異常高熱 (malignant hyperthermia) 誘発時に類似するが、生化学的な反応は同一ではない。5kg/day以上の濃厚飼料を給餌されている馬は、2.5kg/dayの馬に比べて横紋筋融解症を発症しやすいが、グリコーゲンの貯蓄量の増加は観察されない。

 

● 発情中の牝馬で発症する例が多いが、プロジェステロン動態と血清中CK活性に直接的な関連性は認められない。しかし、牝馬にテストステロンを投与することで横紋筋融解症発症が減ると言われている。

 

食餌療法
● 肥満馬では口かごの装着などにより乾草摂食量を体重の1.5%程度に制限し、ビタミン・ミネラルバランサーを与えるべきである。体重が落ちるまでは、血漿中遊離脂肪酸の量を増加させるために運動前5〜8時間は絶食させる。理想体重になったら、デンプンおよび砂糖の含有量が少なく、かつ脂肪を添加した飼料を与える。

肥満馬でなくても、馬術競技および競馬でエネルギーを最大限に有効活用するためには、運動の5〜8時間前に給餌するべきである。食後に血糖値が上がるとインスリンが分泌されるが、インスリンはグリコーゲンの合成を促進させるため、グリコーゲンが消費されにくくなる。したがって、運動の直前に給餌するとグリコーゲンが有効利用されにくくなる。また、運動後に疲労をできるだけ早く回復させるためには、運動の60〜90分後に乾草、2〜3時間後に穀類を与えると良い。デンプンを大量に給餌すると小腸で消化しきれず、大腸に未消化のデンプンが流入するため、腸内環境が大きく変動し、疝痛や蹄葉炎を発症しやすくなる。

● 多糖類蓄積性筋疾患 (PSSM) では再発性横紋筋融解症 (RER) よりも厳密にデンプンの給餌量を制限すべきである。デンプンの給餌量が増加することで、筋肉痛の発生、筋の硬化、運動耐性の低下が実感できるが、震えは改善しにくい。また、明確な科学的根拠はないものの、全摂取カロリーの20%以上は脂肪により摂取させるべきだという意見もある。PSSMの馬ではCK活性が正常でも脂肪給餌量が相対的に少ないことが報告されている。適切な脂肪の給餌量には個体差があり、馬体重に合わせて調節すべきである。また、飼料中の脂肪含有量を増加するだけでは変化が実感できない場合が多いため、運動プログラムを見直す必要がある。

 

● デンプン含有量が低く、脂肪含有量が多い飼料は市販されているが、デンプン含有量は飼料による差が大きく、脂肪の種類も異なるため、すべての市販飼料が有効である訳ではない。また、現時点では非構造性炭水化物の含有量は市販飼料に記載されていないが、必要な情報である。飼料の選択によって臨床徴候の発現を抑制することができると考えられるが、市販飼料を多糖類蓄積性筋疾患 (PSSM) 罹患馬や再発性横紋筋融解症 (RER) 罹患馬に給餌した場合の効果については、ほとんど報告されていない。

 

● NaやClを含有するローズソルト (30-50g/day) を与えるか、塩ブロックを自由に摂食することができる環境が必要である。暑熱環境下では塩の要求量は更に多くなる。バランスが良くカロリー摂取量も適切であり、かつ十分量のビタミン・ミネラルを含有する食餌が治療の核となる。

 

薬物療法として、再発性横紋筋融解症 (RER) 罹患馬に対する低用量アセプロマジンの運動前投与が行われている。運動20分前に7mg を静脈内投与することで、馬がリラックスし管理しやすくなる。作用時間が長い reserpine や fluphenazine も同様の目的で用いられる。ただし、fluphenazine 投与馬は奇妙な行動を呈す場合がある。これらの薬剤は連続的に投与できないため、新しい環境に慣れていない場合にのみ投与する。

 

<参考資料>
Lameness in Horses 6e p.947-950