セレン中毒

セレンとは
セレンとは生体が必要とするミネラルの一種で、体内で生じる活性酸素から細胞を守るはたらきを担っている。500kgの馬が1日に必要とするセレンの量は運動強度に応じて1mg〜1.25mgとされており、乾物飼料1kgあたりのセレンの含有量が0.1mgであれば欠乏症を防ぐことができる。

セレンが欠乏すると筋の健常性が保てなくなって筋萎縮すると考えられてきたが、セレン欠乏症とされる症状が見られる馬はビタミンE欠乏症を併発していることが多く、血液中のセレン濃度が低い馬で異常が認められないことからも、欠乏症の存在は疑問視されている。また、タイイングアップ・シンドローム(労作性横紋筋融解症)の発症はセレン欠乏やビタミンE欠乏とは関連しない。

 

セレンの許容量は少ない
馬が許容できるセレンの最大量は乾物飼料1kgあたり2mgであるという報告がある。馬はセレンの中毒症を起こしやすく、急性中毒症状は失明、発汗、疝痛、下痢、嗜眠、脱毛、蹄の変化、慢性中毒症状は特にたてがみと尾の脱毛、蹄冠直下に生じる広範囲の横裂である。セレンを慢性的に多量摂取するとケラチン内の硫黄(蹄質を改善するとうたっているサプリメントには何が入っている?)がセレンに置換されてしまうため、蹄角質や毛が弱体化すると考えられている。したがって慢性中毒時には、セレンを中和する硫酸塩の経口投与が推奨される。なお、乾物飼料1kg当たり0.5mgを超えるセレンを給餌する必要はないとされる。

 

セレン中毒時の蹄の変化
セレン中毒により蹄角質が弱体化するため、蹄冠直下に広範囲の横裂が生じることが知られている。
蹄の精密なコンピューターモデルを作成して計測すると、最大荷重時の蹄尖壁のゆがみは蹄冠の下10〜15mmの位置で最大であり、蹄冠の下30mmのあたりまで大きい。これが、弱体化した蹄角質は蹄冠から伸びるのに、蹄冠の下10〜30mmのあたりに広範な横裂が生じる原因であると考えられる。

 

IHCS 2019:セレン中毒が疑われた症例の報告

 

<参考資料>
1. 競走馬ハンドブック p.375
2. Nutrient Requirement of Horses 6e p.96
3. Blackmore DJ et al. (1982) Selenium status of Thoroughbreds in the United Kingdom. Equine Vet. J. 14, 139-143
4. Lindholm A. and A. Asheim (1973) Vitamin E and certain muscular enzymes in the blood serum of horses. Acta Agr. Scand. Suppl. 19, 40-42
5. G.D.Ramsey et al. (2011) The effect of hoof angle variations on dorsal lamellar load in the equine hoof. Equine Vet. J. 43,536-542