敗血症性蹄葉炎の予防法<獣医師向け>

少なくとも敗血症性蹄葉炎に限って言えば、炎症反応の調節不全が組織損傷を進行させる鍵となることは間違いない。しかし、残念ながら蹄葉炎の病態形成を食い止めるための抗炎症療法に目覚ましい発展は認められず、最もよく使用される薬剤は未だに非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)である。

 

薬物による抗炎症療法
@ フルニキシン・メグルミン 1.1 mg/kg、1日1〜2回、経口投与または静脈内投与
近年の研究により、敗血症性蹄葉炎モデルにおいてフルニキシン・メグルミンを単剤投与しても、葉状層の損傷はあまり抑制されないことが示された。

蹄葉炎の実験モデルでは跛行開始期においてCOX-2が顕著に増加することが報告されているためCOX-2選択性NSAIDsの有用性は高いと考えられるものの、ヒトではコキシブ類の投与により血栓形成の増加や血管収縮など有害な血管作用が観察されているため、蹄葉炎罹患馬に投与する場合は重大な副作用が観察されないことを検討する必要がある。また、COX-2選択性NSAIDsであるフィロコキシブの鎮痛効果はフェニルブタゾンより弱いことが知られている (薬物療法による蹄葉炎の疼痛管理)。

 

A リドカイン 1.5 mg/kgを10分以上かけて静脈内投与し、その後の投与速度は3mg/kg/hr とする(連続投与は24時間まで)
局所麻酔薬であるリドカインは好中球の食作用やフリーラジカル産生を抑制するなど全身炎症を抑制する効果があると報告されているが、黒クルミ抽出液投与モデルにリドカインを投与しても炎症性サイトカインのmRNA発現量は変化しなかったため、葉状層内の炎症を抑制する効果は疑問視されている。

 

B ペントキシフィリン 8.8mg/kg、1日2回、経口投与
MMP-2とMMP-9の活性を阻害するために蹄葉炎の治療薬として期待されているペントキシフィリンの効果も、実症例においては証明されていない。ペントキシフェリンは非選択性のホスホジエステラーゼ阻害薬であり、当初は赤血球の変形能を高めることによる血流改善効果が期待されたものの、ウマでは血流改善効果が確認されないことが明らかとなった。その後、invitroにおいてウマの全血中サイトカイン量を減少させる効果やMMP-2およびMMP-9の活性を阻害する効果があることが判明したことで、注目された。したがって、血流改善効果は認められないものの、抗炎症効果が期待できるため、有用である可能性があるとされる。

 

冷却療法(cryotherapy)
現在のところ敗血症性蹄葉炎の発症を予防する方法として最も注目されているのは、冷却療法(cryotherapy)である。丈夫なビニルパック(5L補液パックなど)に氷水を入れて球節以下を漬け込み、ダクトテープで固定する。
冷却療法は、全身性炎症反応症候群(SIRS)の徴候が観察されなくなってから24〜48時間は続ける必要があるとされる。冷却療法を開始するタイミングは蹄葉炎のリスクがあると判断されたときであり、臨床徴候が見られるまで待ってはならない。冷却療法は、炎症性メディエーターの発現を特異的に減少させることで蹄葉炎の臨床徴候の発現を予防できる可能性があることが唯一証明されている方法なので、リスクのある馬では積極的に行うべきである。
また、腕節から繋までの血管を保冷剤等で冷却することで、球節以下を氷水に漬け込む方法に近い冷却効果が得られる、という報告もある(アメリカン・ファーリアーズ・ジャーナル2019年1,2月号)。

 

敷料による管理法
敗血症に罹患しており、蹄葉炎を続発するリスクがある馬では、葉状層にかかる荷重を小さくするために敷料を変えることも重要だ。多量の砂が望ましいが、難しい場合は多量のオガ、土などを敷いても良い。
ACS(Advance Cushion Support)などの蹄底充填剤を用いても良いが、深屈腱の張力を下げることを目的として過度に heel-up することは避けた方が良いと考えられる。(急性蹄葉炎では過度に heel-up してはいけない?

 

<参考資料>
Equine Laminitis p.316-328, 432-435