セットバックの効果

セットバックや上彎の付設により、反回点をさげると、どのような効果が得られるのだろうか。
現時点で発表されているデータを紹介したい。

 

● 前肢では反回点を僅かに下げても、トウ骨に加わる圧力を小さくすることはできない
硬地上では、側鉄唇蹄鉄によるセットバックやナチュラル・バランス・シューにより反回点を下げても、トウ骨にかかる最大圧力はほとんど変わらない。床反力の大きさが小さくなるのが速くなるものの蹄踵が離地するタイミングは変わらず、反回にかかる時間もあまり差がなかった。蹄踵の離地は屈曲モーメントが伸展モーメントを上回った時に起こる受動的なものであり、反回直前の床反力の低下や床反力のモーメントアームの短縮はごく僅かであることが原因だと考えられる。9頭を用いた硬地上(forceplateの上にゴムマットを敷いた地面)の速歩において検証した。
蹄が十分に沈み込む軟地上では、セットバックすることで蹄の沈み込みが変わることで、トウ骨に加わる圧力が小さくなる、または大きくなる可能性があると推測される。

 

● 後肢では反回点を下げることで推進力を低下させることなく馬の自然な動きを発揮させることができる可能性がある
鉄頭鉄唇付設蹄鉄(toe-clipped shoe)、側鉄唇付設蹄鉄(side-clipped shoe)、側鉄唇付設・鉄頭部下狭蹄鉄(side-clipped and rolled toe shoe)を後肢に装着し、フォース・プレートを用いて5cmゴムマット上の速歩における床反力を計測したところ、3種の蹄鉄により推進力に差は生じないが、側鉄唇付設・鉄頭部下狭蹄鉄では蹄の反回が制限されず、反回ポイントがより外側に位置した。したがって、後肢では反回点を下げることによって推進力を低下させることなく、馬の自然な動きを発揮させることができると考えられる。また、側鉄唇付設・鉄頭部下狭蹄鉄を装着することで、下肢部に過度な負荷が加わるのを防ぐとともに、協調のとれた動きを促すかもしれない、と考察されている。

 

<参考資料>
1.  E. Eliashar et al. A comparison of three horseshoeing styles on the kinetics of breakover in sound horses. Equine vet J (2002) 34 (2) 184-190
2. B. Spaak et al. Toe modifications in hind feet shoes optimize hoof-unrollment in sound Warmblood horses at trot. Equine vet J (2013) 45; 485-489