蹄が滑りにくくなると浅屈腱・繋靭帯の負担が大きくなる？
前肢では、着地直後に蹄が前に滑ると、浅屈腱や繋靭帯の負担が小さくなることが確かめられている。
実際に、砂馬場とall-weather waxed trackでの速歩における浅屈腱の負担を調べると、砂馬場の方が浅屈腱の負担が大きいことが報告されている。砂馬場よりもall-weather waxed trackの方が滑りやすいことが示されているため、滑りやすい馬場の方が浅屈腱の負担が小さくなると言える。
柔らかい地面の上では、前肢の蹄が着地直後に前に滑るとともに蹄踵が地面に沈み込み、深屈腱がピンと張る。
着地直後に蹄が前に滑ったときの様子
このとき、深屈腱の負担が増える分、繋靭帯や浅屈腱の負担が小さくなる、と考えられている。実際に、蹄踵が沈み込む馬場の方が球節の沈下量が小さくなることを示したデータがある。
アスファルト、fiber/sand mixed track、砂馬場における速歩で前肢球節の最大沈下量を比較すると、球節の最大沈下量は蹄が前に滑るとともに蹄踵が沈み込む砂馬場で最小となり、蹄踵が沈み込まないアスファルトで最大となる。繋靭帯の負担は球節の最大沈下量が大きくなるほど大きくなると言えるため、前肢では、グリップの強い馬場や硬い馬場で運動したり、クランポンを装着したりすることで、繋靭帯や浅屈腱の負担が大きくなると考えられる。
Fiber/sand mixed trackとは非常に細かいシリカに繊維を混ぜた馬場で、オリンピックに使われる予定の馬場だ。
グリップが強いことが示されており、砂馬場で運動するよりも繋靭帯や浅屈腱にかかる負担が大きいと言える。
一方で後肢では、着地直後に蹄が前に滑ると、浅屈腱や繋靭帯の負担が大きくなる。
後肢では、着地直後に蹄が前に滑ると、飛節がさらに伸びた状態になり、深屈腱が緩むからだ。
着地直後の後肢（浅屈腱・深屈腱）
前肢では、浅屈腱および深屈腱の近位付着部（肘のあたり）から球節までの間に飛節のように曲がる関節がない。したがって、浅屈腱の支持靭帯と深屈腱の支持靭帯が浅屈腱や深屈腱が伸びすぎるのを防ぐ役割を担っている。後肢にも深屈腱の支持靭帯は存在するが、非常に細く、ほとんど機能していないと考えられる。
最大荷重時の前肢（浅屈腱・深屈腱・浅屈腱の支持靭帯・深屈腱の支持靭帯）
浅屈腱の支持靭帯や深屈腱の支持靭帯を傷めることがある。また、浅屈腱の支持靭帯が橈骨に付着する部分が過度に引っ張られることで骨増生し、痛くなることがある。このように、靭帯や腱の骨への付着部が過度に引っ張られることが刺激となり、骨増生するものを、筋腱付着部症（enthesopathy）という。
浅屈腱支持靭帯の筋腱付着部症は獣医学的に対処するしかないが、深屈腱の支持靭帯は特に蹄角度の影響を受けるため、深屈腱の支持靭帯炎のリハビリ期には、heel-upすると良い。ただし、過度にheel-upすれば、深屈腱や深屈腱の支持靭帯の負担がかなり小さくなる分、浅屈腱や繋靭帯の負担が大きくなる可能性が高い、ということは、念頭に置く必要がある。
＜参考資料＞
1. Equine Locomotion p.105, 130
2. H.Chateau et al. Effects of a synthetic all-weather waxed track versus a crushed sand track on 3D acceleration of the front hoof in three horses trotting at high speed. Equine vet J (2009) 41;3;247-251
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4. Sebastien Caure et al. The influence of Different Hind Shoes and Bare Feet on Horse Kinematics at a Walk and Trot on a Soft Surface, J Equine Vet Sci (2018) 70; 76-83
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