ow Heel/High Heel Syndrome 罹患馬の歩様違和に関する考察

2018年のウマ科学会にて発表された演題の概要をご紹介します。

 

<発表の概要>
Low Heel/High Heel Syndrome は馬の動きに影響を及ぼすと考えられており、海外では整体師やカイロプラクターの間で注目されている。しかし関連した報告は少なく、臨床的な意義が明らかになっていないため、栗東トレーニングセンター在厩の Low Heel/High Heel Syndrome 罹患馬16頭(蹄角度が大きい方が右前肢:11頭、左前肢:5頭)を対象に調査を行った。調査は歩様の視診(左右仙結節の位置)、触診(腫脹・圧痛)および騎乗者へのアンケート(発進しづらい手前、動きの硬い手前、もたれる手前)により行った。その結果、触診により確認された下肢部の異常に一定の傾向はなかったものの、視診により左右仙結節の位置のずれが10頭で見られ、その全頭において常歩および速歩における骨盤の動きに非対称性が観察された。また、騎乗者のアンケート結果により、High Heel 側の手前で駈歩が発進しづらく、駈歩中に違和感を覚える傾向があることが分かった。歩様に違和感を覚える要因として球節以下の衝撃吸収不足、肩の筋肉痛が考えられるため、今後はカイロプラクティック的なアプローチも含め対処法について検討していきたい。

 

不同蹄と歩様の違和感について
機器を用いて馬の動きを客観的に評価すると、大半の馬で動きの非対称性が確認され、跛行に分類できるそうだ。そして、不同蹄と歩様の違和感に関連性がある、という報告は海外では多数ある。
不同蹄と歩様の違和感の関連性を指摘する報告があった折に、重要なのは不同蹄の原因論だということを装蹄師の皆様が声を大にして主張する必要があると思う。

 

不同蹄が歩様の違和感の原因なのだろうか。それとも、歩様の違和感が生じる何らかの要因により、不同蹄になっているのだろうか。装蹄師が最も知りたいこの問いに、「不同蹄の馬は動きが左右非対称だ」との報告は答えてくれない。

 

そこで、仔馬を観察することで不同蹄の原因を探った研究者がいる。生後4週のオランダ温血種の仔馬が生後24週になるまで4週ごとに削蹄を行い、生後27週の時点で蹄を観察したところ、不同蹄は解消されなかった。また、蹄の形と放牧地で草を食むときの姿勢(グレイジング・スタンス)に関連性があることから、多くの馬は前肢の開き方に好みがあり、どちらか片方の前肢を前に投げ出す傾向があるために不同蹄になりやすいのではないか、と結論付けた。いつも前に投げ出している蹄は low heel になり、後ろに引いている蹄は high heel になる、という訳だ。

 

では、放牧地で草を食むことがほとんどなくなった成馬でも、前肢の開き方の好みは残っているのだろうか。同じ馬が3歳になった時に不同蹄と前肢の開き方の好み(地面に牧草を置いて特定の傾向があるか調べた)、駈歩の手前の好み(人が騎乗しない状態で駈歩をさせたときに、特定の手前が出やすい傾向があるか調べた)、障害飛越能力(人が騎乗しない状態で障害を飛越させ、飛越能力を調べた)に関連性があるかどうか調べたところ、前肢の開き方の好みは依然として残っており、不同蹄との関連性が認められた。また、不同蹄と駈歩の手前の好みとの関連性も認められたが、障害飛越能力との関連性は認められなかった。ちなみに、この馬たちは、普段小さなパドックに放牧されるだけで放牧地で草を食むことはなく、厩舎内で地面に置かれた乾草を食べていた。

 

それなら、乾草を地面に置かず、前肢を開かなくても食べられる位置に吊るせば良いのか。言い換えれば、不同蹄の原因は、グレイジング・スタンスだけなのだろうか。

 

例えば、片方の前肢に何らかの怪我を負った結果、痛みが取れた後も球節が沈下しにくくなったとする。すると、球節が沈下しにくい方の肢の蹄は、蹄踵が伸びてhighheelになる。また、跛行していた時期がない馬でも、生まれながらに左右の肢の骨の形や向きが異なるため、球節の可動域が違うことはよくある。これらの場合、歩様の違和感の原因は、「不同蹄」ではなく「球節の可動域に差があること」なのではないだろうか。確かに、不同蹄をそのままにせず、可能な限り是正する必要はある。しかし、high heelの蹄を反対側の蹄形に近づけるべく蹄踵を大きく削切したところで、球節が十分に沈下しなければ、かえって歩様の違和感は強くなるだろう。

 

不同蹄の原因は、グレイジング・スタンスや球節の可動域の差だけではなく、多数存在する。しかし、歩様の違和感の原因を特定することが難しい場合、最も目に付く不同蹄が悪者になりやすい。もちろん、装蹄師の皆様は常に不同蹄の程度を小さくすべく何らかの対処をされていることと思う。十分に対処をしていても不同蹄の解消を強く求められた場合には、不同蹄が生じる原因についてクライアントに疑問を投げかけ、意識を変える努力を続ける必要があるのではないだろうか。また、同時にそれぞれの馬について不同蹄の原因を追及し続けることで、新たな発見があるかもしれない。

 

最後に、海外では、グレイジング・スタンスにより生じる不同蹄は馬場馬に多い、ということを付け加えておきたい。不同蹄の程度が大きい馬は、仔馬の時に体高に比べて肢が長く頚が短い傾向があることが報告されており、これは放牧中に牧草を食べる際に前肢をより大きく前後に開く必要があるためだろう、と言われている3。一方、き甲が発達した馬(単純に体高が高いだけでなく、き甲が大きく発達した馬)を選抜していくと相対的に頚が短い馬が生まれやすいことが明らかになっている。発達したき甲はあらゆる乗馬競技において好まれる形質であるため、人為的な選抜淘汰を繰り返すことで頚が短く不同蹄になりやすい馬が増えると考えられる。

 

その中でも、障害馬では頚が長い方が障害飛越に有利なためき甲が発達した馬のうち比較的頚が長い個体が選別されてきたが、馬場馬では頚の長い個体ではなく頚が上に向っている(頭の位置が高いと表現される)個体の方が有利なため、障害馬ほど頚が長い個体が選別されてこなかった。その結果、特に馬場馬に生まれつき不同蹄になりやすい馬が多いと言われている。ちなみに、トップレベルの障害馬および馬場馬においては不同蹄により競技寿命が短くなる傾向が認められる(特に障害馬でその傾向が強い)ものの、一般的なレベルの競技馬では不同蹄がある馬で顕著に競技寿命が短くなるような傾向は認められない。

 

<参考資料>
1. Van Heel et al. (2006) Uneven feet may develop as a consequence of lateral grazing behavior induced by the conformation of a foal. Equine Vet. J. 38, 646-651
2. Van Heel et al. (2010) Lateralised motor behavior leads to increased unevenness in front feet and asymmetry in athletic performance in young mature Warmblood horses, Equine Vet. J. 42, 444-450
3. American Farriers Journal, September/October 2017, p.72-75
4. Equine Locomotion 2e, p.229-244