ウマ科学会 2018:蹄葉炎における血管造影検査の有用性について

2018年のウマ科学会にて発表された演題の概要をご紹介します。

 

<発表の概要>
蹄葉炎の診断には単純レントゲン検査が欠かせないが、近年では蹄内の血流障害を確認する血管造影検査が実施されるようになってきた。しかし蹄葉炎における血管造影検査の有用性については十分な報告がないため、2010年7月から2018年9月までに実施した蹄葉炎120蹄の歩様検査、単純レントゲン検査、血管造影検査の結果を用いて血管造影検査の有用性について検討した。単純レントゲン検査結果を蹄骨下面角度から蹄骨ローテーションの程度で分類したレドンのレントゲングレード(T:5〜9°U:10〜14°V:15〜20°W:≧20°)を用いてグレード分けし、血管造影検査結果を血流障害の程度で分類したレドンの血管造影グレード(T:極軽度 U軽度 V中程度 W重度)を用いてグレード分けした後、それぞれの結果と跛行グレード(0:跛行なし 1:イレギュラー 2:速歩で断続的点頭3:速歩で持続的点頭 4:常歩で跛行 5:完全免重)との関連性を比較した。その結果、レントゲングレードと跛行グレードの相関係数が0.31であるのに対し、血管造影グレードと跛行グレードの相関係数は0.463であり、より強い正の相関が認められた。したがって、血管造影検査により、蹄質や蹄形に大きく影響を受ける単純レントゲン検査よりも正確に蹄葉炎の病態を把握することができると考えられる。

 

血管造影検査(ベノグラム)による蹄葉炎の評価について
血管造影検査とは血管内に造影剤を注入することで蹄内血行障害の程度を評価する検査であり、一般的には静脈内に造影剤を注入する静脈造影検査を指す(動脈内に造影剤を注入する動脈造影検査も存在する)。ふつう静脈には逆流を防ぐ弁が存在するが、蹄鞘内を走る静脈の大半には弁がないため、静脈内に造影剤を注入すると、正常であれば造影剤が静脈内に速やかに行き渡る。
蹄骨が大きく変位する前にレントゲン検査によって蹄葉炎を診断することはできない。また、ローテーション型慢性蹄葉炎でも、蹄骨が一定の位置に落ち着いているにもかかわらず痛みが強い場合と弱い場合があり、単純レントゲン検査だけで病態を正確に把握することは難しい。そこで、蹄内の血行状態を評価するために血管造影検査を行うと良い。

 

痛みの強い慢性蹄葉炎で血管造影検査を行うと蹄骨背側面の葉状層の静脈がほとんど描出されないが、葉状層の静脈だけでなく回旋静脈にも注目する必要がある。ローテーションの程度が軽度であっても回旋静脈が明瞭でない場合には注意が必要で、蹄骨尖が血管を圧迫することで血行を阻害しているため、蹄負面バランスを変える必要がある。

 

血管造影正常像 血管造影検査・正常像

 

 痛みの強い慢性蹄葉炎の血管造影検査結果

 

 蹄内静脈と回旋静脈

血管造影検査(ベノグラム)の手技<獣医師向け>

 

非イオン性血管造影剤であるイオパミドール(ヨード含有量300mg/mL)を平均的な大きさの蹄に対しては20mL、中間種などの比較的大きい蹄に対しては25mL用いる。abaxial nerve block後、球節にしっかりと駆血帯を巻き、レントゲン撮影台に蹄を載せた後、21G翼状針を用いて繋部の指静脈内に血管造影剤を注入する。注入前に血液を抜去しなくても良い。造影剤を注入し終わったらすぐに外内側像→前後像→外内側像→前後像と速やかにレントゲン撮影を3回程度繰り返す。造影剤注入後の経過時間が長くなりすぎると、評価できる造影造影像を撮影できなくなるので、レントゲン撮影は速やかに行う。また、駆血帯はゴム状のものを用い、しっかりと巻くことが非常に重要である。

 

<参考資料>
Equnine laminitis p.75